日本には数多くのヘビが生息しています。
アオダイショウやマムシはよく耳にすると思いますが、皆さんはヤマカガシというヘビをご存知でしょうか。
ヘビなんて嫌いだから興味ないという方も多いと思いますが、実はこのヤマカガシ、私たちの身近に潜む毒性のあるヘビなのです。
今回は、ヤマカガシの生態や毒性について説明したいと思います。
ヤマカガシってどんなヘビ?
学名 | Rhabdophis tigrinus |
英名 | Tiger keelback |
分類 | 有鱗目ナミヘビ科ヤマカガシ属 |
分布・生息域 | 本州、四国、九州 |
大きさ | 60~150cm |
ヤマカガシは、有鱗目ナミヘビ科ヤマカガシ属のヘビです。
ヤマカガシは日本では南西諸島、小笠原諸島および北海道以外にすべて生息する、私たちの生活の中で割とよくみられるヘビです。
ヤマカガシの「カガシ=楝蛇」というのは、日本の古い言葉で「蛇(へび)」を意味しており、名前の由来としては「山の蛇」ということになります。
ヤマカガシは全長60~150センチメートル程度、体色は基本的には褐色の地肌に赤色と黒色の斑紋が交互に並んでいるのが特徴です。
首周りには黄色の帯があり、この帯は若い個体ほど鮮やかで成長とともにくすんできます。
しかし、体色は個体差や地域変異があり、関東地方の個体は赤色と黒色の斑紋が交互に並んでいるのに対し、関西地方の個体は斑紋が不明瞭で、さらに近畿地方西部から中国地方の個体では青色型がみられることもあります。
個体によって模様がさまざまなので他の種類のヘビとの判別が難しいですが、大きな特徴としてキール(鱗一枚一枚についている隆起)が強いことが挙げられます。
触るとかなりざらざらした感じがするので、どうしても判別したい場合は、このキールが強いかどうかで判別するのがよいでしょう。
しかし、ヤマカガシは毒があるので、興味本位でむやみに触りにいくのは止めましょうね。
ヤマカガシの生態
ヤマカガシは、平野や山間部の標高の低い地域にある水場に生息しています。
河川敷や田んぼなど、田舎であれば比較的私たちに身近な場所で見かけることができます。
水場に住んでいるのは、餌であるカエルやおたまじゃくし、小型魚類がたくさんいるからです。
他の種類のヘビと違ってネズミなどはあまり捕食せず、とくによく狙って食べるのはヒキガエル(ガマガエル)です。
ヒキガエルには毒性があるので他のヘビは襲わないのですが、ヤマカガシはむしろ好んで食します。
そして、捕食したヒキガエルの毒を体内に貯蓄し、自分の毒として使用するのです。
ヤマカガシがヒキガエル(ガマガエル)を捕食する動画↓
ヤマカガシの活動時間は朝から夕方ですが、まれに夜間も活動することがあるようです。
木に登ることはほとんどなく、基本的には地表で生活します。
繁殖の時期は冬眠直前の秋ごろで、その際妊娠したメスは翌年の夏に10~20個程度の卵を石や落ち葉の下などに産卵します。
生まれた後の幼ヘビは、約3年で1メートルほどの大きさに育ちますが、寿命自体は約5年と言われています。
ヤマカガシは危険?
気になるのはヤマカガシの毒ですが、実は最近まで毒性のあるヘビとは認識されていませんでした。
なぜなら、被害者が出ていなかったからです。
1972年に中学生が咬まれて死亡するという事故が起きて初めて、毒ヘビであると認識されるようになったのです。
なぜ、被害者が出にくかったのか?まず、挙げられるのは毒牙の位置でしょう。
ヤマカガシの毒牙は上あごの奥歯にあります。
一般的な毒ヘビは、口腔内の一番前にある大きな牙に毒腺がありますが、ヤマカガシは奥歯なので一瞬噛まれただけでは皮膚に食い込まず毒が注入されません。
また、基本的にヤマカガシは臆病なヘビなので自分から人を襲いません。
しかし、ヤマカガシが毒蛇である以上、危険なのは間違いありません。
ヤマカガシに出会ったとき咬まれないようにするためにどうすべきか、それはとにかく近寄らないことです。
人間がむやみに手を出すことによって、自らを防御するために咬むのです。
もしもヤマカガシに出会ったら、大人しく逃げましょう。
ヤマカガシの毒性
ヤマカガシの毒は、マムシやハブと同じ出血毒になります。
ヤマカガシの毒性の強さは国内最強で、ハブの10倍、マムシの3倍程度と言われています。
ヤマカガシの毒には強い血液凝固作用があり、血管内のいたるところに血栓形成を引き起こします。
咬まれた直後に激しい痛みや腫れはありませんが、毒が体内に回ると徐々に体内出血が起こります。
頭痛、吐き気、リンパ節の腫れが起こり、重症例としては脳出血、急性腎不全などが挙げられ、最悪の場合死に至ります。
また、ヤマカガシは口腔内の毒牙のほかにも、首の付け根の部分に頚腺と呼ばれる別種の毒腺を持っています。
そして、首の部分から出る毒は液体として飛ばすこともできるのです。
この毒が目に入った場合は結膜や角膜の充血や痛みを生じ、結膜炎や角膜混濁といった症状が起こり最悪の場合、失明もあり得ます。
ヤマカガシに咬まれてしまったら?
ヤマカガシは、咬まれても毒を注入されている可能性が低いヘビですが、万一の時に備えて毒があるものと思って行動したほうがいいでしょう。
ヤマカガシに咬まれてしまったら、まずは毒をできるだけ吸引しましょう。
流水で洗いながら血を絞り出し、少しでも毒を体外に出すことによりその後の症状が少し軽くなります。
そして、咬まれた場所から10cmほど心臓に近いところをタオルなどで強く縛ります。
ですが、あまりにも強く締めすぎて完全に血の流れが止まるのも良くないので、目安として指1本程度は入るくらいのゆとりを持って縛りましょう。
ここまでしたら速やかに病院へ行き、輸血や透析処置をしてもらう必要があります。
本来なら血清投与が望ましいのですが、現在日本ではジャパンスネークセンター(日本蛇族学術研究所)にしか血清を常備しておりません。
そのため、まずは病院へ行き、医師に相談することが大切です。
口で吸いだすのは危険!
毒蛇に噛まれた時の応急措置で、口で直接毒を吸いだすというのを聞いたことがあると思います。
しかしこの方法は、口の中に傷があった場合、体内に毒が回ってしまうという危険性があるのです。
虫歯、口内炎、歯周病といった自分でも気付かない傷があるかもしれないので、止めておいた方が良いでしょう。
アウトドアに出かける際は、できる事なら、毒を吸いだせる専用器具を持っていきましょう。
ポイズンリムーバーという毒を絞り出す道具があるので、念のため準備しておくのも良いでしょう。
まとめ
以上、ヤマカガシの生態や毒性について触れてみました。
ヤマカガシは強力な出血毒を持つ毒蛇ですが、
・性格的に臆病なこと
・一瞬噛まれたくらいでは、毒牙が奥にあるため毒を注入される可能性が低い
ことから、被害は少ないヘビです。
しかし、その毒性は非常に強いので、見つけても近寄らないようにしましょう。
こんなに毒性の強いヘビが身近に生息していると思うと不安になりますね。
市街地に住んでいる場合はヘビに遭遇することはあまりないですが、バーベキューやキャンプといった場合には注意する必要があります。
個人的にはヘビは大好きで、動物園などでは触りたいと思ってしまう私ですが、何も知らないで野生のヘビにむやみに近づくのは非常に危険ですね。
もしヤマカガシに出会ってもお互いに刺激しあうことのないよう、落ち着いた対応を心掛けていきたいものです。