夏になると肌の露出が多くなりますが、それに伴い増えるのが虫刺されの被害です。
気が付いたら体のあちこち何ヶ所も刺されて、大変な目に遭ったなんて経験ありますよね。
虫刺されと言えば蚊や蜂などを思い浮かべますが、他にも厄介な虫はたくさんいます。
中でも一見アリによく似ている、通称「やけど虫」には特に注意が必要です。
なぜなら、この虫の体液そのものに強い毒性があるからなんです。
今回は、やけど虫(アオバアリガタハネカクシ)の生態や危険性、症状や処置方法についてご紹介させていただきます。
アリによく似たやけど虫
学名 | Paederus littoralis Gravenhorst |
英名 | Paederus fuscipes |
分類 | コウチュウ目ハネカクシ科 |
分布・生息域 | 国内全域、 |
大きさ | 6~7mm |
「やけど虫」の正式名称は「アオバアリガタハネカクシ」といって、コウチュウ目ハネカクシ科の甲虫の仲間です。
体長6~7mmと小さくてとても細い虫です。
上翅が少し青みがかった黒色(アオバ)、アリによく似た形(アリガタ)、小さな上翅の中に大きな後翅をたたみ隠している(ハネカクシ)などの形態からその名がついたようです。
頭や胸の一部分と尾の先端が黒色、他はオレンジ色をしています。
頭が黒、胸がオレンジと黒、尾がオレンジと黒、という具合に、黒とオレンジの縞模様です。
特に頭部がアリによく似ていて、黒とオレンジの縞々模様と特徴的なので覚えやすいですよね。
実は益虫?生態と生息地
やけど虫は日本全国に分布しており、水田周りや畑、池や沼、川原など湿気のある土壌を好んで生息しています。
他にも雑草や落葉、朽木う石の下など、あらゆる所で生息、繁殖しているのです。
年に1~3回発生し、メスの成虫のみが越冬するとされています。
卵は土中に産み落とし、3~19日ほどで孵化し幼虫となります。
幼虫から10~50日ほどでサナギになった後は、3~12日後に羽化します。
成虫は5月から10月くらいまで見られますが、梅雨の時期から夏にかけてが最も増えます。
光に集まる習性が非常に強いので、家の灯りや街灯などによく飛来します。
雑食性ですが、稲などに大量発生する害虫のウンカやヨコバイなどを捕食してくれるので、農業では益虫とされています。
強い毒性のために恐れられている反面、役にも立っているという、2つの顔を持つ虫なんですね。
やけど虫と呼ばれる理由
アオバアリガタハネカクシがやけど虫と呼ばれるのは、体液に持っている「ペデリン」と言う有害物質のためです。
ペデリンに触れてしまうと、やけどをした時のような発疹や水ぶくれなどの皮膚炎を引き起こします。
やけど虫は本来攻撃的ではなく、人の皮膚にくっついたとしても咬んだり刺したりすることはありません。
しかし、体に止まったやけど虫を手で払いのけただけでも、その毒性の強い体液が皮膚に付着してしまうんです。
このペデリンという有害物質を持つのは、成虫だけではありません。
卵や幼虫、さなぎまでも体内に持っているんです。
この毒があるのは、やけど虫が生きている間だけではありません。
たとえ死骸であっても、体液や分泌物が残っている限り、この毒性は有効なのです。
ですから生きていても死んでいても、迂闊に素手で触ることは危険なのでくれぐれも注意が必要です。
やけどのような症状
やけど虫の体液の毒に接触した場合、そのまま放置しておくと2時間から1日ほど経過してから、赤く腫れあがるやけどに似た皮膚炎症状が現われます。
赤い線や帯を描いたように腫れあがり、水ぶくれにになったりただれたりします。
これを「線状皮膚炎」と言い、悪化した場合は患部が色素沈着を起こし跡が残ってしまうこともあります。
痛みや痒みが生じ、まれに重症化すると、リンパ管の炎症による発熱や風邪のような症状が現われ、完治に時間がかかる場合があります。
やけど虫はよく飛ぶので、顔への被害も多く、特に目には注意が必要です。
直接目にぶつかってくるようなことが無くても、やけど虫を追い払った手で目や顔に触れてしまっただけでも、間接的にペデリンに接触してしまうからです。
毒が目に入ってしまうと、激しい痛みとともに結膜炎や角膜炎、虹彩炎など様々な目の炎症を引き起こします。
最悪失明する恐れもあるとされているので要注意ですね。
接触した時の応急処置
もしも、やけど虫に接触してしまった場合、まずは患部をしっかり洗い流して下さい。
多少痛みがあっても、洗い流すことによって毒の拡散を防ぐことができます。
湿疹、かぶれ用のステロイド成分の入った軟膏があれば、それを塗ってよく冷やします。
ちなみに、メントールが入った虫刺され用の塗り薬は、患部を刺激するので使わないようにしましょう。
と、ここまでは応急処置。
できればその後は、症状が現われるに前に、速やかに皮膚科を受診することをおすすめします。
症状には個人差がありますが、2時間から1日後に現われます。
そのため初期症状は軽めでも、時間の経過とともに悪化してくる可能性があるのです。
ですから皮膚科、または目の場合は眼科を早めに受診するのがおすすめです。
きちんと治療すれば5~10日ほどで治ります。
無闇に潰さないで!対処法と駆除方法
やけど虫の対処法として大切なこと、それは「素手で触らない」ことです。
被害を防ぐには、とにかくやけど虫の体液に触れないことが重要なのです。
やけど虫が肌に付いていた場合は、タオルやハンカチなどでそっと払いのけて下さい。
もしくは、1cmにも満たない小さな虫なので、息でも簡単に吹き飛ばせてしまいます。
そして患部をよく洗い流しておけば問題はありません。
やけど虫の駆除で、無闇に叩いたり潰したりするのはとても危険です。
基本的には市販の害虫駆除用スプレーをかければ死んでしまいますが、死骸にもまだ毒があるので、ピンセットのようなものやティッシュを何枚も重ねた状態でそっとつまんで下さい。
その時に、くれぐれも潰さないように気をつけて下さい。
潰してしまうと体液が出てしまうので、たとえティッシュを重ねていたとしても、毒に接触してしまう可能性があります。
外に逃がす場合もありますが、その際にはやけど虫を刺激しないようにしましょう。
やけど虫は飛び回るので、うっかり体液に接触してしまう恐れがあります。
室内への侵入を防ぐには、夜間は窓を開けないのが一番いいのですが、暑い季節には難しいですよね。
網戸も有効ではありますが、虫は戸のすき間からも簡単に侵入してきます。
網戸だけでなく、窓付近の外壁まで防虫忌避効果のあるエアゾール、またはスプレーを吹きつけておくのもひとつの方法です。
怖い拡散型被害
やけど虫の被害で一番多いのが、毒がついているところからまた他所へうつる拡散型の被害です。
服の上に体液が付いた状況で、本人が気づかないまま被害に遭うケースもあるのです。
特に顔は、私たちが手でよく触れる部分です。
目をこすったり、鼻や口を無意識に触れることは実はとても多いのです。
やけど虫の毒性はとても強いので、たとえ間接的であったとしても、ペデリンの影響は免れません。
見に覚えが無い場合でも、赤い腫れや水ぶくれの症状が出た場合はやけど虫の毒の可能性を疑ってみて下さい。
まとめ
やけど虫はその体液に毒性を持つ虫です。
皮膚に体液が付着すると、やけどをした時のような発疹や水ぶくれなどの皮膚炎を引き起こします。
どんなに気をつけていても、やけど虫との接触を避けられない場合はあります。
・アリによく似た黒とオレンジの縞模様の虫には毒があるから、直接手では触らない。
・やけど虫に触れてしまったらすぐに洗い、ステロイド軟膏を塗る
この2つを知っているだけでも、突然の事態に対処する意識は違ってくるはずです。
室内への侵入だけではなく、農作業やジョギングやウォーキングのような屋外での活動で、やけど虫に接触する可能性は常にあるのです。
もし、皮膚についているのを見つけたら、やけど虫を潰さないようにタオルやティッシュでそっと払いましょう。
虫にも強い毒性を持つものは少なくありません。
やけど虫に触れてしまった時は、症状を悪化さないよう、早めに皮膚科などの受診を心がけましょう。