毒を持つ生き物と言われて、まず「ヘビ」を連想する人は多いのではないでしょうか?
毒蛇にもいろいろな種がありますが、特にコブラ科のヘビはある意味毒蛇界のエリート軍団でもあります。
なぜならコブラ科はその全種が毒蛇であり、いずれも猛毒の持ち主だからです。
その中でもキングの名で知られている「キングコブラ」は、世界最大・最長の毒蛇で有名です。
恐ろしいイメージの強いキングコブラですが、実はとても魅力的な最強キングでもあるのです。
今回は、キングコブラの生態や毒性についてご紹介させていただきます。
目次
キングコブラとは
キングコブラは、コブラ科キングコブラ属に分類される毒蛇です。
そしてこのキングコブラ科は、キングコブラのみの単独種でもあるのです。
「世界最強の毒蛇ランキングトップ50」によると、毒性の強さ50傑の中で、45種までがコブラ科のヘビ(ウミヘビ含む)で占めています。
しかもトップ10に至っては、全種がコブラ科と言う、筋金入りの毒蛇軍団なんです。
そんな猛者たち中でも、キングコブラは別格の存在とされています。
最大5m超え!世界最大の毒蛇
平均体長は3~4m、体重8kgほどと、コブラ科の中でも最大、最長です。
過去最大のものでは、1924年に捕殺された個体の全長559cm、生きている個体としては、1932年マレーシアで捕獲された個体で554cmで12.7kgという記録もあります。
キングコブラは間違いなく世界最大の毒蛇と言えるでしょう。
生息地は、東南アジア(フィリピン、タイ、カンボジア、ミャンマーなど)からインド東部にかけて幅広く生息しています。
主に熱帯域の森林にいますので、あまり人間の生活域とは重なりません。
キングコブラは、生息地によって体色が異なるため、様々な体色の個体が見られます。
暗緑色や暗褐色黒、黄色がかった明るい色のものまでいます。
そこに黒や白などの縞模様がある例も見られます。
幼蛇の体色は生息地に限らず共通していて、黒い体色に横縞模様が入っています。
目は、まん丸で結構かわいいですね。
寿命はおよそ20年ほどとされています。
大好物は「ヘビ」!?
肉食性のヘビがエサとして捕食するものとしては、ネズミや鳥類、カエル、などがあります。
キングコブラも同じと思いきや、実は他のヘビが大好物なんです。
ですから他のヘビたちがエサを追って出没しそうな所には、キングコブラも彼らを追ってよく現われるというわけです。
他にはトカゲ類などの爬虫類や、鳥類の卵や小型の哺乳類も捕食することもあります。
キングコブラは地上の他、木登りも得意なので樹上でも生活します。
実は泳ぎも得意なので、湿地や水辺などでは水上や水中で生活することもできるのです。
泳ぐ姿なんてちょっと想像できませんが、この生態は他のヘビを好んで捕食するという、キングコブラの食性が大きく関係しているようです。
ちなみに、キングコブラの学名「Ophiophagus hannah」は、「ヘビを食べるもの」という意味があるそうで、それだけヘビ類を好んで食べることが認知されているんですね。
巣で卵を守る唯一のヘビ!?
キングコブラは産卵のために巣作りをします。
これはヘビ類では唯一キングコブラだけが行う特殊な生態でもあります。
ヘビ類の中には「卵胎生」という卵を胎内で孵化させて子を産む繁殖形態がありますが、キングコブラは卵で生む「卵生」です。
産卵期を迎えると、メスは小枝や枯葉を集めて巣を作り、20~50個ほどの卵を産みます。
そして、集めた枯葉を卵にかぶせて自身はトグロを巻いて卵を保護するのです。
こうしてキングコブラの母親に守られた卵は、約60~80日で孵化します。
見た目のインパクトとは反対に実は大人しい性格
キングコブラが相手を威嚇する場合には、トグロを巻いて体長の1/3ほど鎌首を持ち上げます。
さらにもたげた鎌首のフードと呼ばれる首の付け根部を大きく広げながら威嚇します。
大きな個体だと、高さ1m以上まで鎌首を持ち上げてくるのでそのインパクトは凄まじいものでしょう。
インパクト抜群なキングコブラですが、実はとても大人しい性格だとされています。
また、攻撃する前に派手な威嚇を行ってくるので、この威嚇の時点で離れればむやみに攻撃されないとされます。
しかし、例外として先ほどお話したように卵を守っている時期は、巣に近付くものには容赦なく襲いかかってくる可能性があります。
妊娠中や子育て中などに攻撃性が増すのは、多くの動物たちと同じですね。
ちなみに、キングコブラは、この威嚇のポーズを取ったまま移動することができるそうす。
これは他のコブラにはできない事です。
あの威嚇ポーズのまま近づいてくるのですから、かなりの恐怖を感じますが、その移動速度はあまり速いものではないので逃げることは可能だそうですよ。
キングコブラの天敵
キングコブラにも天敵は存在します。
それは「孔雀(クジャク)」です。
孔雀は、実はヘビが大好物なんです。
しかも、神経毒に耐性があるため毒が効かない、というキングコブラにとっては本当に最強の天敵なのです。
そのため、アジアでは孔雀が魔除けの象徴として祭られている地域もあるそうです。
キングコブラの毒性
キングコブラの持つ毒は、他のコブラ類と同様の「神経毒」です。
しかし、キングコブラの毒は他のコブラ科のヘビと比べて特別強い毒ではありません。
他にもっと強い毒を持つコブラ科のヘビがいるのですが、キングコブラの恐ろしさは毒量にあります。
キングコブラはコブラの中でも最大種のため、側頭部にある毒腺も大きく発達しています。
そのため一咬みの毒の注入量が非常に多いのがキングコブラの特徴です。
その量は他のコブラの数倍とされており、まさしくキングの名に相応しい圧倒的な毒の量なのです。
したがって、現地では「咬まれたら助からない」「象をも殺す」と恐れられています。
しかしキングコブラの生息地が人と重ならない事や、大人しい性格から、他のコブラ科のヘビと比べて被害は少ないそうです。
致死率の高い神経毒
ヘビ毒は「神経毒」と「出血毒」の2種類に分類されます。
コブラ科が持つ神経毒は、出血毒に比べて即効性が高く致死率が高いとされています。
キングコブラに咬まれると、麻痺、痺れ、呼吸困難などの症状を引き起こし、早いと30分ほどで死に至ることもあります。
また、キングコブラの毒は主に神経毒ですが、出血毒の成分も含まれるため患部を中心に壊死を引き起こす可能性もあります。
ヘビ使いのヘビは毒なしヘビ
コブラと言えば、カゴに入ったコブラをヘビ使いの笛の音に合わせて踊らせる大道芸が有名ですね。
キングコブラが使われることもあるようです。
あの行動は音を聞いているのではなく、目の前にいる蛇使いや笛に対する威嚇行動とされており、蛇使いがコブラの威嚇動作に合わせて笛を動かしているから、コブラが踊っているように見えるという話もあるようです。
実際のところ危険であることには変わりなく、蛇使いが咬まれることもあるのだとか。
しかし、芸に使われるコブラは毒を抜いているため咬まれても平気なようです。
ちなみに、現在は法律でコブラが保護されているためヘビ使いは激減しているそうです。
まとめ
キングコブラは、東南アジアからインド東部にかけて生息する毒蛇の中では最大の種です。
その毒性は主に神経毒で、毒の強さよりもその注入量から致死率が非常に高い危険な毒蛇です。
しかし、その生息域が人間と重ならない事や、大人しい性格から、他のコブラ科のヘビと比べて咬まれる数は少ないそうです。
また一方では、ヘビの持つ毒で抗毒血清を作ったり、他にも鎮痛薬など有用な薬として研究、開発が進められています。
キングコブラの毒も治療薬として活用されているのです。
生き物の猛毒は、時に私たちの命を奪いかねない恐ろしいものですが、その一方では命を助けてくれる大切な存在でもあるのですね。