皆さんはイルカンジクラゲというクラゲをご存知でしょうか。
オーストラリア近海に生息するクラゲなのですが、小さいながらに毒性が強く、昔から現地の人や観光客から恐れられる存在なのです。
アボリジニから“見えない怪物”とも言われるイルカンジクラゲ。
今回は、イルカンジクラゲの生態と毒性、イルカンジ症候群について取り上げてみましょう。
目次
イルカンジクラゲの生態
イルカンジクラゲは、アンドンクラゲ目イルカンジクラゲ科に属する立方クラゲです。
傘の大きさは5mm~3cm程度と小型で、触手は数センチから長いもので50cm近くあります。
ドーム型の傘1つに対し触手は4本です。
熱帯性であり、主にオーストラリア北部の水深1m程度の浅瀬に生息しています。
かつてオーストラリア北東部に住むアボリジニであるイルカンジ族の間で、
「海中にはとても小さくて目で見ることができない“怪物”がいて、その怪物によって人々は苦しめられ死ぬこともある」
と言い伝えられていました。
イルカンジクラゲという名前はそのイルカンジ族にちなんで命名されました。
その言い伝え通り、イルカンジクラゲは非常に小さく半透明の体をしているので、海中にいたらほぼその存在を確認することはできません。
そのうえ、イルカンジクラゲは非常に強い毒を持っており、気づかないうちに刺されてしまうという被害が多発しているのです。
イルカンジクラゲの毒
イルカンジクラゲは触手だけでなく傘にも神経毒を持っています。
その毒性は非常に強く、コブラの100倍以上と言われています。
イルカンジクラゲは、小さくてその存在に気づかないのに加え、刺されてもさほど痛みは感じないため、直後は刺されたことに気づかない人が多いようです。
刺された傷跡もほとんどつきません。
しかし徐々に、最悪命にもかかわる非常につらい症状が襲ってくるのです。
刺された時の症状、イルカンジ症候群
では、刺されるとどのような症状が起きるのでしょうか。
イルカンジクラゲの毒針に刺されると、30分ほど経ってから激痛と皮膚の炎症が起こります。
その強い痛みは、頭や胸、背中、腎臓などほぼ全身に襲いかかってきます。
そして急激な血圧上昇が起こり、最高血圧が300近くになることもあります。
ひどい場合は精神不安といった症状もあらわれ、脳内出血を起こして最悪の場合死亡してしまうこともあります。
イルカンジクラゲに刺されたことによるこの一連の症状を"イルカンジ症候群”と言います。
全身の痛みにはモルヒネが効かないので、非常に厄介な毒と言って良いでしょう。
イルカンジ症候群があらわれた際の対処法
では、イルカンジ症候群があらわれた際の対処法についてご説明します。
まず、刺されたことに気づいた時点で患部を酢で洗い流しましょう。
オーストラリアのビーチにはほぼ酢が置いてあるので、酢の心配をする必要はありません。
そして、できるだけ早く医療機関を受診してください。
医療機関では、痛みに対しては硫酸マグネシウムの投与が、血圧上昇が起きた場合には硫酸グリセリンの口中噴霧といった処置が施されるようです。
幸い、イルカンジクラゲは個体が小さいため、1度刺されただけでは死亡するケースは少ないそうです。
もちろん、その強力な毒性から油断はできませんが。
イルカンジクラゲによる死亡者数
2017年時点で、イルカンジクラゲによる死亡例は7例報告されています。
しかし、実際にはもっと多くの死亡者がいると考えられています。
それは、イルカンジクラゲに刺されたことに気づかず、泳いでいるうちにイルカンジ症候群が引き起こされ溺れてしまうことがあるためです。
つまり、海で溺死した人の中で、イルカンジクラゲに刺されたことが原因である人がいる可能性があるのです。
とにかく事故を防ぐためには、海で泳ぐ際はクラゲから身を守ることが大切です。
長袖のラッシュガードを着て肌の露出を減らす、くらげよけネット内で泳ぐといった対策をとれば被害にあうことは少ないでしょう。
海以外でも被害が!?
イルカンジクラゲに刺されるのは海での遊泳中が多いです。
しかし、時には予想外の状況で刺されてしまうこともあったそうです。
2007年には、プールで少女が刺されてしまったという例があります。
オーストラリア北東部にあるプールの中に生きたイルカンジクラゲがいて、泳いでいた10代の少女が刺されてしまったのです。
なぜプールにイルカンジクラゲが侵入したのかは、未だ謎だそうです。
また2010年には、オーストラリア北部で大型船に乗り釣りをしていた40代男性が、釣りの最中にイルカンジクラゲに刺されてしまった例もあります。
海面からは25mもの距離があり、なぜ刺されてしまったのか不明とのことです。
刺された男性はヘリコプターで病院へと運ばれたそうです。
海で泳いでいないこのようなケースでは被害は防ぎようがないですね。
日本にもいる!?小さな猛毒クラゲ
さて、イルカンジクラゲによる被害はオーストラリアでの話ですが、実は日本にも似たような危険性を持つクラゲが存在します。
それは“カギノテクラゲ”というクラゲです。
カギノテクラゲは1~2cm程度の小さなクラゲで、触手は名前の通りカギ状に折れ曲がっています。
北海道や東北地方の日本海側に多く生息しており、アオサなどの海藻の間に潜んでいます。
神経毒を持っており、症状はイルカンジクラゲと似ていて、刺されてから1時間ほどして呼吸困難や筋肉痛といった全身症状があらわれます。
毒性の強さから刺された場合の症状はひどく、救急車で運ばれることも多いようです。
春先から夏にかけて多く見られるので、日本でもこの時期に海に入る際は注意すべき危険なクラゲなのです。
カギノテクラゲについてはこちらの記事をご参考に。
まとめ
イルカンジクラゲはオーストラリアに生息する、とても小さな猛毒クラゲです。
刺されると、30分ほどしてから、全身の激痛、急激な血圧上昇、精神不安、脳内出血、といった症状が現れ最悪の場合死亡する可能性もあります。
いずれにしても、危険なクラゲはどこにでもいます。
被害を防ぐためにはもちろん海に入らないことが一番ですが、先ほども述べたとおり海で泳ぐ際は自己防衛がなにより大事なのです。
せっかくの海、楽しい思い出のはずが救急車で運ばれてしまったなんて嫌ですよね。
日本でも海外でも、海に入るならクラゲに刺される可能性はあります。
もしオーストラリアに行って海に行くことがあったら、是非イルカンジクラゲのことを思い出してください。