「人食い」「脳食い」…などゾッとする名前で呼ばれることもある微生物がいます。
この微生物の正体は、殺人アメーバ・フォーラーネグレリアです。
今回の記事では、フォーラーネグレリアに感染した時の症状や治療、予防方法について解説します。
目次
フォーラーネグレリアとは?
フォーラーネグレリアとは、ヘテロロボサ門・シゾピレヌス目・ファールカンピア科・ネグレリア属に属する自由生活性アメーバです。
学名は「Naegleria fowleri」、和名は「フォーラーネグレリア」です。
フォーラーネグレリアには病原性がない(人間には害のない)「Naegleria lovaniensis」「N. fowleri」「Naegleria johanseni」「Naegleria martinezi」の近縁種が4種存在していて、いずれもネグレリア属に属しています。
フォーラーネグレリアは、25~35℃の淡水に生息している微小なアメーバです。
普段は水底にいるバクテリアを食べています。
河川・湖・池・水たまりなどの他、塩素処理されていない水、温泉や銭湯に生息していることがあります。
成長や繁殖によって姿が変わるサイクルを生活環と呼びますが、フォーラーネグレリアはこのサイクルの中で鞭毛型に変化します。
鞭毛型になると水中での遊泳が可能になりますが、これは他のアメーバには見られない特徴ですね。
これにより人間への寄生が可能になります。
フォーラーネグレリアの危険性
フォーラーネグレリアは寄生性のアメーバで、人間に対して病原性があり、「原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)」を引き起こす可能性があります。
この髄膜脳炎は「PAM(primary amoebic meningoencephalitis)」とも呼ばれます。
フォーラーネグレリアによるPAMは致死率が98%と極めて高いため、非常に危険とされています。
アメリカでは1962~2015年までに134件の報告がありますが、生存者はたったの3人なのです。
感染経路
前述したようにフォーラーネグレリアは、淡水で25~35℃の温水環境に生息しています。
生息している場所の水が鼻から入ると発症する可能性があります。
逆に鼻以外の侵入経路はないとされ、水を飲みこんでも大丈夫だそうです。
鼻から入ったフォーラーネグレリアは、嗅粘膜や鼻孔組織を通り抜けます。
その後、眼球付近にある嗅球(きゅうきゅう)と呼ばれる嗅覚情報に関わる組織に移動して、組織を破壊します。
この破壊により、嗅球の壊死と出血が起こります。
ここまででもかなりゾッとする話ですが、ここからがもっと恐ろしいのです。
さらにフォーラーネグレリアは神経線維を伝い、頭蓋底と呼ばれる脳を下から支える部分を通り、脳内に侵入します。
脳内に侵入したフォーラーネグレリアは、あろうことか組織融解酵素で脳を溶かし、溶かした脳を栄養にするのです。
「脳食い」とも呼ばれるフォーラーネグレリアは、本当に人間の脳みそを食べていたのです。
よりにもよって何故脳みそなのか・・・。
フォーラーネグレリアに対する治療法は、抗生物質「アムホテリシンB」という薬物治療が効果的とされます。
ただし、すでにPAMを発症している場合は、あまり効果は期待できず、過去の成功例は8例のみ…つまりその他の感染者は死んでしまったことになります。
PAMを発症した時の症状や治療方法
フォーラーネグレリアによるPAMを発症すると中枢神経系が冒されます。
初期症状は、嗅覚や味覚の異常が見られます。
進行すると、吐き気・嘔吐・発熱・頭痛といった症状が出ます。
最悪の場合、急速に昏睡したのち5日ほどで死亡します。
「殺人アメーバ」と呼ばれる由来ですね。
決め手となる治療方法はまだありませんが、アメリカでPAMを発症して生き残った3名のうち、ひとりは「ミルテホシン」を投与する治療を受けていました。
フォーラーネグレリアの感染予防方法は?
現在、PAMの予防のワクチンはありません。
また、なぜ鼻のみが感染経路になるのかも不明です。
そして、例えば同じ湖で泳いでいても、感染する人としない人がいますが、その差も不明なのです。
予防方法は、フォーラーネグレリアが生息している可能性のある場所に入るとき、鼻をつまむか、ノーズクリップを使用します。
また、フォーラーネグレリアは水底のバクテリアを餌にしているので、水底の堆積物をかき回して水中に巻き上げないように注意します。
お湯を循環させている入浴施設では、顔を水に浸けないようにし常に水面から出しておきましょう。
ちなみに、ニュージーランドでは多くの温泉施設に「アメーバの危険性があるため、顔を水に浸けないように」という注意書きがあるそうです。
フォーラーネグレリアは日本にもいる?
非常に恐ろしいことですが、フォーラーネグレリアは日本にも存在しているようです。
2002年、国立感染症研究所が全国二百数十箇所の入浴施設で水質調査を行いました。
その結果、約六割の施設から人間に害となりえる原発性アメーバが見つかり、内9%がフォーラーネグレリアだったそうです。
日本国内での感染報告は1件のみですが、1996年11月に佐賀県鳥栖市で25歳の女性がPAMを発症し死亡しました。
感染経路は不明ですが、彼女は事務職をしており、過去1ヶ月以内に海外旅行はしておらず、野外の水遊び、プールや温泉などの利用もなかったとされます。
ただ、女性の住居と職場であった鳥栖市は、フォーラーネグレリアの生息に適した環境とされます。
女性が亡くなった後で解剖したところ、やはり彼女の脳は形を保てないほど柔らかくなっていました。
特に脳を下から支える脳底部はひどい状態で、各組織の状態が判別できないほどでした。
気になる方も多いと思うので、女性の身に起きた症状の変化を書き留めておきますね。
11月17日に発熱
19日には38.3℃の高熱・頭痛・吐き気・嘔吐があり、近くの診療所で感冒と診断される
20日には39.3℃に上がったため、昨日の診療所に入院
21日も熱は下がらず、意識混濁になり、久留米大学病院救命救急センターICUに搬入
22日、脳髄液中にアメーバを発見するも、すでに脳死状態
27日に死亡
この女性は、症状が現れてからわずか10日ほどで亡くなっています。
まとめ
フォーラーネグレリアは、25~35℃くらいの淡水に生息しているアメーバです。
フォーラーネグレリアが生息している水を鼻から吸い込むと、原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)を引き起こす可能性があります。
PAMは発症すると、致死率が98%にもなるため非常に危険です。
フォーラーネグレリアは致死率が高いためとても恐ろしいアメーバですが、感染すること自体は非常に稀だと言えます。
心配な方は、水を塩素処理してあるプールで遊ぶのが一番安全ですね。