近年では撮影機器の進化からも、様々な生物たちの映像を観ることができます。
特に本来であれば人間のテリトリーではない海中の映像には驚かされることも多くあります。
どこまでも広がる大海原を自由に泳ぎまわる海洋生物にはどこか神秘的な魅力を感じますが、その容姿からも多くの魚類とは一線を画しているのが「エイ」です。
しかしこのエイ、実は海だけでなく淡水にも生息する種類もいるのです。
淡水で生息しているエイの仲間は「淡水エイ」と呼ばれて、現在では飼育する人も多く観賞魚としても人気があります。
今回は、淡水エイの種類や生態、毒棘の危険性についてご紹介させていただきます。
目次
硬骨魚類と軟骨魚類
エイの仲間はサメの仲間などとともに「軟骨魚類」というグループに所属しています。
一般の魚類の「硬骨魚類」とは、別物と区別されているのです。
一口に区別と言っても、魚は様々な形で分類されていますが、魚類から次に大きく分類されるのが、硬骨魚類と軟骨魚類なんです。
軟骨魚類は約1000種前後とされており、そのうちエイは約600種で、平べったい体と大きな胸ビレを持ち、海底付近に生息するものが多いとされています。
多くの人がその名を聞いたことがあるであろう「マンタ」もエイの仲間です。
大きな胸ビレをはばたくようにして優雅に泳ぐ姿は、テレビなどでも紹介されていますよね。
そんなマンタの映像からもエイは海に棲む生物と思われがちですが、実は川など淡水地帯に生息しているエイの仲間もいるのです。
観賞魚としても人気の「淡水エイ」
「淡水エイ」は川や湖などの淡水域に生息するエイのことをいいます。
アマゾン川流域に生息する南米固有の「アマゾンタンスイエイ科」や、東南アジアを中心に生息している「アカエイ科」の一部などが、この淡水エイになります。
特にアマゾンタンスイエイ科の淡水エイは、模様や色なども豊富なため観賞魚としての人気も高く、個体によっては高値で取引されています。
しかし、エイは大きなサイズの水槽が必要であったり、温度変化や環境変化に敏感であったり、尾に毒棘を持っていることなどから、なかなか飼育が難しい魚とされているそうです。
最大450kg?様々な淡水エイの種類
代表的な淡水エイの種類をご紹介します。
・ヒストクリス・・・アマゾンタンスイエイとして古くから知られているポピュラー種です。
・ダイヤモンドポルカドットスティングレイ・・・体色は黒く白く抜けたスポット(点)に加えて、外輪にもスポットがあり、このスポットの大きさや出方によって呼び名が変わる場合もあります。(ギャラクシーダイヤモンドポルカ・エクリプスダイヤモンドポルカ・ブックスポットダイヤモンドポルカなど)
・ポルカドットスティングレイ・・・体色は黒く白い水玉模様が美しく、成長すると60cmを超える固体もあるとされ模様も様々です。
・マンチャデオーロ・・・ポルカドットよりも細かいスポットを持ち、バリエーションも多く成長すると60cmを超えるとされています。
・クウロコダイルスティングレイ・・・全身に金色のスポットがリングに囲まれた模様と持ち、成長すると60cmを超えるとされています。スポットが白く出る固体もありゴールドリングスティングレイ・ホワイトクロダイルと呼ばれます。
・モトロ・・・体色は黄色がかった薄い茶色に、こげ茶のドーナツ型のスポットが入っている固体が多く「オレンジスポットタンスイエイ」の名前で親しまれてきました。
・ヒマンチュラ・チャオプラヤ・・・淡水エイの中では最大級とされ、過去に250~450kgの固体が発見されています。
ちょっと変わった生態「卵胎生」
ほとんどの魚類は「卵生」で、卵の状態で体外に産み出されます。
しかし淡水エイは魚類ではありますが卵生ではなく、「卵胎生」という少し特殊な生態を持っています。
卵生は親から卵の状態で生み出されて、卵の中である程度成長してから孵化します。
一方の淡水エイに見られる卵胎生は、卵の状態で生まれると母親の体内で卵から孵化し、胎内で卵黄などから栄養を吸収してある程度発育してから体外に産み出されるのです。
淡水エイは非常に長生きで、自然下では40年以上も生きる固体もいるとされています。
ただし飼育下では、約5~10年ほどとされています。
普通飼育下の方が長生きしそうなものですが、淡水エイは水温や環境の変化に敏感なため、飼育下での長生きは難しいようです。
尾にある毒棘に注意!
淡水エイを扱う際には注意が必要です。
淡水エイの尾の付け根には毒性の棘があり、さらに棘の両側には鋸状の歯があって素手で触れると危険なのです。
淡水エイは温厚な性格で攻撃的な固体はほとんどいませんが、驚いた場合には攻撃してくる可能性はあります。
こちらにその気はなくとも、何が淡水エイに刺激を与えてしまうか分かりませんから、飼育するにあたっては十分な注意が必要となります。
淡水エイの毒は、複数のアミン酸からなる中性のタンパク毒で、刺された場合には激しい痛みや発汗、めまいのほか、呼吸困難、痙攣などの症状を引き起こす場合があります。
もしも刺されてしまった場合の応急処置としては、40~45度くらいの熱いお湯に患部をつけることで毒を熱分解することができるので、ある程度の痛みを緩和することはできますが、その後は早めに医療機関を受診し医師の診察を受けましょう。
安全のため、毒棘にゴム製のキャップを被せたり、毒棘を切断する方法もあります。
ただしこの棘は切断しても数ヶ月で再生するので、引き続き注意が必要です。
エイによく似たサメとの見分けかた
エイとサメは同じ軟骨魚類というグループに所属していますが、中には「サメ」という名を持っているにもかかわらず、なぜか「エイ」の仲間もいます。
「サカタザメ」はエイの仲間ですが、サメの中には「カスザメ」のように平べったい体型をした種もいるため非常に間違いやすいのです。
このためエイ特有の体型だけで、エイとサメを判断することはできません。
エイとサメの仲間を見分けるポイントは、体型ではなく鰓孔(さいこう)と呼ばれるエラの部分です。
エイの仲間は鰓孔が腹部にあり、サメは体側にあるので、この鰓孔の位置が腹部かそれとも体側にあるかで判断するのです。
と言っても、エイなのになぜにサメの名前が付いているのか、サメでありながらなぜエイのように平べったいのか、本当にややこしいですね。
まとめ
淡水エイは近年観賞魚としても人気の魚ですが、尾には毒棘があるので取り扱いには注意が必要な魚です。
もし刺された時は、40~45度のお湯に患部を浸すことで痛みを和らげることができます。
痛みが続いたり、他の症状も現れるようなら急いで病院へ向かいましょう。
淡水エイの生態は、まだまだ謎に包まれている部分が多くあるとされています。
自然下の中で生きる淡水エイが、本当に川だけで一生を過ごすのかどうかも確実ではないようです。
近年では河川の生息環境の悪化などから、個体数の減少も危惧されています。
古代からその姿を変えていないとされるエイの仲間たちが生きる環境を、私たち人間が壊すことがあってはならないと肝に銘じる必要がありそうですね。