ハゼと言えば天ぷら。
ハゼ釣りの後に天ぷらを楽しむ方も多いでしょう。
また、ハゼは小さくて愛嬌のある顔から観賞用としても人気が高い魚です。
しかしこんなハゼの仲間に、ふぐ毒のテトロドトキシンを持つツムギハゼという種類がいるのです。
ハゼなのにテトロドトキシンを持っているの?と不思議に思いますよね。
今回はこのツムギハゼの生態や毒の危険性、マハゼとの見分け方について触れてみたいと思います。
ツムギハゼの生態
ツムギハゼは、スズキ目ハゼ科に分類される魚です。
体長15cm程度で、体色は黄褐色、もしくは白っぽいハゼです。
頭と目が大きく、体側から尾ビレにかけて3つの大きな黒色斑点があるのが特徴です。
このつむぎ模様のような黒色斑点があることからツムギハゼと名付けられたようです。
また、背ビレが前後に分かれていて、前方背ビレの第2棘が長く伸びているのも特徴的です。
生息地域は静岡県以南の太平洋岸ですが、鳥取県など日本海でも見つかることがあるようです。
以前は奄美大島以南と言われていたのですが、2004年頃から徐々に生息地域が北へ広がってきました。
その理由としては、地球温暖化による海水温の上昇や稚魚が黒潮に乗って北上してきたことと考えられています。
生息場所は河口付近のマングローブ域の泥地や、内湾の浅瀬にある砂泥底で、主にエビなどの小さな甲殻類や落下昆虫を食べています。
潮だまりにもいることがあるので、つい捕まえたくなるかもしれませんが、前述したようにツムギハゼには毒があるので捕まえてはいけません。
なぜ毒があるの?
気になるのは、なぜふぐではない生物がテトロドトキシンを持っているのかということです。
テトロドトキシンはふぐが体内で作りだしているイメージですが、実はそうではないのです。
ふぐがテトロドトキシンを持つ理由についてはまだはっきりとしたことは分かっていませんが、最近の研究では、海中に存在するビブリオ菌やシュードモナス菌といった細菌がテトロドトキシンを産生し、その毒素を取り込んだ貝やヒトデ類を捕食することによりふぐにも蓄積されていくと考えられています。
つまり食物連鎖ですね。
実際に、実験でふぐをテトロドトキシンが存在しない環境で人工餌により飼育したところ、体内から毒素が検出されなかったという結果が出ているようです。
つまり、ツムギハゼも、体内のテトロドトキシンは餌由来の毒ということになりますね。
また、ふぐはテトロドトキシンに耐性があり、むしろ積極的に摂取することで免疫力を高めています。
これについても他の生物も同じと考えられます。
ツムギハゼの毒性
それでは、ツムギハゼの毒性についてご説明します。
ツムギハゼには先ほども述べたとおり、ふぐ毒である猛毒のテトロドトキシンがあります。
毒がある部位は筋肉と皮膚で、特に皮膚には多く含まれているようです。
毒の威力はふぐとほぼ同じ程度で、致死率は50~60%と言われています。
ただ、毒の強さは地域によって異なり、無毒のツムギハゼが存在する地域もあるようです。
地域によっては昔その毒性を利用して、田んぼにツムギハゼを放ち殺鼠剤代わりにしていたという話もあります。
基本的に筋肉にも毒があるため、食用とはされていません。
ちなみにふぐ以外でテトロドトキシンを持つ生物は、アカハライモリ、ヒョウモンダコ、スベスベマンジュウガニなど、ツムギハゼ以外にもいくつか存在します。
テトロドトキシンの強さと症状
さて、このテトロドトキシンとはどの程度の毒で、摂取した場合どのような症状が出るのでしょうか。
テトロドトキシンは青酸カリの1000倍近い毒性で、300度の熱でも分解されることはありません。
よって、通常の加熱処理では効力は衰えないのです。
人間が摂取したことによる致死量は2~3mgです。
テトロドトキシンが体内に入ると20分~3時間以内に発症し、身体のしびれや麻痺、嘔吐、頭痛といった症状があらわれます。
重症化すると呼吸困難や意識障害、体温低下といった症状もあらわれ、放っておくと8時間以内に死に至ります。
現時点では有効な解毒剤や治療法はないため、発症したら一刻も早く医療機関で処置をする必要があります。
幸い、ツムギハゼは個体が小さく摂取量が少ないためか、国内では死に至るケースはまだ報告されていません。
しかし、海外では死亡例があるため決して油断できないのです。
ツムギハゼとマハゼの見分け方
ツムギハゼは、食用として利用されているマハゼに見た目が良く似ているため、間違って食べてしまうと非常に危険です。
ここで、ツムギハゼとマハゼの違いについて触れておきたいと思います。
ツムギハゼ 出典:marinesnow マハゼ 出典:opencage.info
1、背ビレの突起
大きな違いとしては背ビレです。
前述したように、ツムギハゼの前方の背ビレは第2棘が長く伸びていますが、マハゼにはそのような特徴はありません。
2、目と頭が大きい
ツムギハゼはマハゼと比べて目と頭が大きく、マハゼの方が頭も目も小さくスリムな体型をしています。
3、体の斑点
ツムギハゼの体側には3つの大きな黒色斑点があるのに対し、マハゼは体側から尾ビレにかけて数個の不明瞭な黒色斑点が並んでいます。
これらを知っていればどちらか区別することは可能なので、ハゼが釣れた場合はツムギハゼではないかどうかしっかりと確認をしましょう。
まとめ
食べると死に至る可能性のあるツムギハゼ。
ツムギハゼは今のところ本州中部以南でしか発見されていませんが、生息地域が広がっている理由が温暖化だとすれば、これからさらに広まっていく恐れがあります。
海外では、誤ってツムギハゼを食べて食中毒で死亡したという事件もあります。
ツムギハゼの特徴は、
・前の背びれの突起、大きめの目と頭、体の3つの大きな黒色斑点
と覚えておきましょう。
釣りを楽しむ際には、ツムギハゼはいないだろうと決めつけず、怪しい個体が釣れた場合は誤って食べないように気をつけましょう。
食べない以外に身を守る方法はないのです。