アオブダイという魚をご存知でしょうか?
この魚にはパリトキシンという猛毒が内臓にあり、あの有名なフグの毒よりも強いというのです!
国内でも、誤って食べた人が食中毒症状を発症し死亡した例もあります。
毒を持つ魚アオブダイ、一体どんな魚なのでしょうか。
今回は、アオブダイの生態や毒の危険性、食中毒の事例についてご紹介させていただきます。
目次
アオブダイの生態
アオブダイとは、スズキ目ベラ亜目ブダイ科に属する魚です。
生息地は伊豆諸島や東京湾以南、朝鮮半島以南からフィリピン沖など広範囲に分布しており、基本的に暖かい地域にある浅い海の岩礁やサンゴ礁に生息しています。
ブダイの由来としてはひらひらと踊るように泳ぐため“舞鯛”、鯛に比べると不細工なため“不鯛”など、さまざまな説があるようです。
地方名も多く、アオ、バンドウ、アオイガミなどと呼ばれることがあります。
さて、そんなブダイの仲間であるアオブダイは、名前の通り青緑色をしています。
最大で体長90cmにもなり、特徴としては、
・頭部が大きくオスは成長とともに前頭部にこぶができる
・歯は青く、上下の歯がそれぞれ癒合して鳥のくちばし状になっている
という点が挙げられます。
アオブダイは昼行性で、昼に餌を食べるなど活動し、夜は岩陰に隠れて眠ります。
眠る際には、口から出る粘液によって薄い透明の寝袋を作りその中で眠ります。
これは、寝袋に入ることで自分の体臭を消し、ウツボなど夜行性の肉食魚から身を守るためだそうです。
アオブダイは釣りや刺し網などにより漁獲されるので、食べることも可能ではあります。
いきなり!黄金伝説で、よゐこの濱口さんが食べていた事もありますね。
いかつく青々としている見た目からは想像できませんが、身は白身でフワフワとしていて美味しいらしく、好んで食べる方もいると聞きます。
しかし、アオブダイの内臓には毒性の強いパリトキシンが含まれているため、食中毒症状を引き起こす危険性があるのです。
なぜ毒を持ってるの?イワスナギンチャクとの関係
アオブダイは雑食性で、エビやカニといった甲殻類や貝類などを捕食します。
また、岩やサンゴに張り付いている藻類も、くちばし状の歯でかじり取って食べます。
そして、イソギンチャクの一種であるイワスナギンチャクも捕食するのですが、実はこのイワスナギンチャクはパリトキシンを保有していて、アオブダイは体内に入ったパリトキシンを肝臓や消化器官などの内臓に蓄積します。
そのため、アオブダイの内臓をうっかり食べてしまうと食中毒症状が起こるのです。
また、アオブダイもすべての個体が毒を持つわけではありません。
先ほども述べたとおり、アオブダイの毒は餌となるイワスナギンチャク由来のため、毒を持たない餌ばかりを食べるアオブダイは毒を持たないのです。
パリトキシンの毒性
食中毒症状を起こすパリトキシンという毒についてご説明します。
パリトキシンは海中の植物性プランクトンによって作られる非常に強力な毒素で、フグが保有するテトロドトキシンの70倍近い強さだと言われています。
このパリトキシンは、加熱しても毒性は失われないので、アオブダイを食するときは内臓をすべて取り除く必要があります。
内臓を取り除かなくても、身だけ食べれば良いだろうという人もいるかもしれませんが、もし煮付けた場合パリトキシンは煮汁に溶け出してしまいます。
さらに、最近では身の部分からもパリトキシンが検出されたという報告もあり、内臓を食べなければ大丈夫とも言い切れないのです。
パリトキシンによる中毒症状
パリトキシンによる中毒症状は、体内に入ってから12~24時間程度で発症します。
中には数時間で発症する人もいるようです。
その症状は、横紋筋の融解による激しい痛みを伴う筋肉痛、身体のしびれや痙攣、黒褐色の排尿などです。
重症化すると、呼吸困難や不整脈といった症状も表れ、腎不全になり死亡するケースもあります。
パリトキシン中毒は発症すると急激に悪化していくので、一刻も早く病院へ行く必要があります。
仮に病院で処置してもらっても、回復するまでには早くて数日、ひどい人は数週間かかります。
現時点ではパリトキシンの解毒方法は見つかっていないため、非常に厄介な毒なのです。
ちなみに、パリトキシン毒はアオブダイ以外では、ソウシハギ、ハコフグ、ウミスズメといった魚も持っています。
厚生労働省によると、1953年~2012年の間に少なくとも39件の食中毒報告があります。
総患者数は121名、そのうち7名が死亡しています。
アオブダイが原因の死亡例は5件です。
アオブダイによる食中毒の事例
・2012年、長崎県にて漁で釣ったアオブダイを煮付けや刺身にして食べた70代男性が、食中毒により死亡しました。
・2015年には、宮崎県にて煮付けたアオブダイを食べた70代の女性が食中毒による腎不全で死亡しました。
・都内の飲食店で、スタッフ4名がアオブダイの頭部や内臓入りのカレーを食して食中毒になり全員入院しました。
・鹿児島県内でアオブダイを購入した夫婦が、肝やアラを煮込んで食したことにより食中毒症状を起こしました。
アオブダイはあまり市場に出回らないので、毒があるとは知らずに食してしまうことが多いようです。
アオブダイとイラブチャーって一緒の魚?
実は、沖縄県内ではイラブチャーという、アオブダイと似た魚が食されています。
イラブチャーとは沖縄の方言でブダイ科の総称を言い、沖縄近海で漁獲され市場にも出回っています。
見た目はアオブダイそっくりで頭のこぶもくちばし状の歯も一緒ですが、アオブダイとイラブチャーは別の魚です。
イラブチャーはブダイ科のナンヨウブダイやヒブダイで、中毒症状が出るアオブダイとは種類が異なります。
見分け方としては、イラブチャーの尾ヒレは上下が長く伸びているという点です。
←アオブダイの尾ヒレ ←イラブチャーの尾ヒレ
また、イラブチャーには青色以外にも緑や赤、白、黒とさまざまな色の種類が存在し、その数は80種類近くと言われています。
沖縄県内ではイラブチャーを食べたことによる中毒症状は報告されておらず、沖縄県も安全宣言を出しています。
とはいえ、同じブダイ科である限り、肝臓に毒を蓄積しないとは言いきれません。
念のため内臓はきれいに取り除いたほうが良いでしょう。
ちなみに、沖縄県内でのイラブチャーの食べ方は、刺身やマース煮(塩煮)が多いようです。
まとめ
アオブダイは、青緑色したブダイで、その内臓に猛毒のパリトキシンを持つ魚です。
毒があるのは餌となるイワスナギンチャク由来のため、すべてのアオブダイに毒があるわけでもないそうですが、見た目で毒を保有しているか判断することはもちろんできません。
アオブダイによる食中毒症状を防ぐには、とにかく食べないことです。
どんなにおいしくても食中毒によって死亡する可能性があるならば我慢するしかありません。
アオブダイ以外にも毒を持つ魚は存在するので、もし市場に出回っていない珍しい魚を釣った場合は、あらゆる可能性を考えて食べないに越したことはないでしょう。