体をくねらせながら優雅に海を泳ぐウミヘビ。
海釣りやダイビングを趣味とされる方であれば、恐らく何度も出くわしたことがあると思います。
ウミヘビは毒を持つということはご存知だと思いますが、その生態について詳しく知っているという方はどれだけいるでしょうか。
陸で生活するヘビと何が違うの?と思いますよね。
今回は、ウミヘビの生態や毒性、日本にいる種類についてご説明したいと思います。
目次
ウミヘビの生態
“ウミヘビ”と名のつく動物は、鱗のある爬虫類に分類される種と鱗のない魚類に分類される種がいます。
毒をもつのは前者の爬虫類に分類される種です。
今回取り上げるのは、爬虫類に分類されるウミヘビです。
爬虫類のウミヘビは、陸上で生活するコブラ科のヘビが海に進出して適応していったものと言われています。
そのため、爬虫類のウミヘビは肺呼吸をします。
海中を泳いでいる時間はおよそ30分~1時間。
適度に海面に顔を出しては息継ぎを行います。
主に太平洋西部やインド洋、オセアニアなどの熱帯から亜熱帯の温暖な海域に生息しています。
浅い海のサンゴ礁や岩礁地帯にいることが多く、主に魚を食べて生活しています。
基本的には夜行性であるため日中は岩陰などで休んでいますが、種によっては波打ち際や陸地に上がってくるものもいるため、人間と接触する機会も多いです。
ただ、温厚な性格の種が多いため、もし出くわしてもむやみに近づいたりしない限り襲ってくることはほとんどないと言って良いでしょう。
日本にいるウミヘビの種類と特徴
ウミヘビには多くの種が存在し、体長や体形は種によって異なります。
ウミヘビは、大きく“エラブウミヘビ亜科”と“ウミヘビ亜科”の2系統に分類できます。
この2系統で大きく異なるのは繁殖形態です。
エラブウミヘビ亜科は卵生で、普段は水中で生活するものの産卵時には陸に上がります。
一方、ウミヘビ亜科は卵胎生で、仔ヘビを母体内で孵化させたのち水中に産み落とします。
その結果、ウミヘビ亜科では陸を這いまわる必要性がなくなったことにより腹板が小さく退化しました。
陸を這いまわる必要性のあるエラブウミヘビ亜科にはまだまだしっかりした腹板が残されており、それぞれの環境により体形にもさまざまな違いが見られます。
さて、日本近海に生息するウミヘビは9種存在します。
エラブウミヘビ亜科では、
・エラブウミヘビ、ヒロオウミヘビ、アオマダラウミヘビ
の3種。
ウミヘビ亜科では、
・クロガシラウミヘビ、イイジマウミヘビ、セグロウミヘビ、マダラウミヘビ、クロボシウミヘビ、トゲウミヘビ
の6種です。
次に、それぞれの特徴についてみていきましょう。
エラブウミヘビ
まずはエラブウミヘビ亜科の3種です。
エラブウミヘビは沖縄近海によく見られる種で、近年は九州や四国あたりでも目撃されています。
体長は70~150cm程度、体色は青色で胴体にひし形の黒斑点が並んでいます。
昼間は陸地に上がり岩陰などで休むことが多いため、砂浜や波打ち際で見かけることがあります。
エラブウミヘビは沖縄や奄美近辺でイラブーと呼ばれ、イラブー汁として食されています。
ヒロオウミヘビ
ヒロオウミヘビも沖縄近海でよく見られる種です。
体長は70~120cm程度、体色は青色や青灰色で黒く太い横帯が50本ほど並んでいるため青と黒の縞模様に見えます。
比較的細めの体つきをしています。
昼間は岩の割れ目などで休んでいますが、非常に強い神経毒を持っているため見かけても手を出すのはやめましょう。
アオマダラウミヘビ
アオマダラウミヘビはエラブウミヘビ亜科の最大種で、体長は80~150cm程度あります。
アオマダラウミヘビも体色は青色地に黒い横帯が並んでいますが、ヒロオウミヘビよりも黒帯の幅が狭いです。
頭頂部と目の後ろが黒色、口先の鱗が淡黄色という点で見分けが付くでしょう。
比較的陸地に上がる頻度が多い種ではありますが、他の2種と比べると日本で見かける機会は少ないようです。
クロガシラウミヘビ
次にウミヘビ亜科の6種を見ていきましょう。
クロガシラウミヘビは南西諸島や沖縄の沿岸でよく見られる種で、藻場や浅瀬に生息しています。
昼行性で、陸に上がることはまずありません。
体長は80~140cm程度、体色は淡黄色で黒色の横帯が並んでいます。
体形は細長く、頭部は小さく全体的に黒色です。
神経毒を持ち、咬まれると最悪の場合死に至る危険性があるため注意が必要です。
イイジマウミヘビ
イイジマウミヘビも沖縄近海でよく見られる種で、昼行性で海中でのみ生活をします。
体長は50~90cm程度、体色は淡黄色に不明瞭な黒色の横帯が並びます。
体形はやや太めで、丸みを帯びた頭部に分厚く硬くなった唇、歯や毒腺が退化しほぼ無毒化されているという特徴があります。
また、生きた魚ではなく主に魚卵をえさとしています。
セグロウミヘビ
セグロウミヘビは外洋に生息する種で、暖流に乗って日本近海までやってきます。
体長は60~90cm程度、体色は名前の通り背側が黒く、腹側は黄色や淡褐色です。
陸に上がるとすぐに死んでしまいますが、稀に浜辺に打ち上げられてしまうことがあります。
人を死に至らしめるほどの神経毒を持ち、さらに気性も荒いです。
出雲地方では龍蛇様として奉られているようです。
マダラウミヘビ
マダラウミヘビはウミヘビ科最大種です。
体長110~180cm程度、体色は淡黄色や黄褐色で黒色の横帯が並んでいますが、頭部は全体的に黒色です。
神経毒を持ち、こちらも気性が荒いことから特定動物に指定されています。
マダラウミヘビと思われるヘビを見かけたらまず近づかないほうが良いでしょう。
クロボシウミヘビ
クロボシウミヘビは沿岸域の砂地や泥質の海底に生息していますが、個体数が少ないためあまり見かけることはない種です。
体長は80~90cm、体色は背側が黄白色に黒い横帯が並び、腹側は白色です。
頭部は青黒色で、口周りは白色、胴体は比較的太めです。
昼行性で攻撃性が高い種ですが、陸に上がることはないため人間と接触する機会は稀です。
トゲウミヘビ
トゲウミヘビもあまり日本では見かけることはない種で、オスのすべての鱗に棘状の突起があることからその名が付きました。
体長は60~120cm程度、体色は白色地に黒褐色の横帯が並んでいます。
砂地や泥質の海底に生息しており、主に魚やイカなどを捕食しています。
以上、日本近海に生息するウミヘビについて紹介しました。
ウミヘビの毒性
全体的にウミヘビは毒性が強く、咬まれたら非常に危険です。
陸上のコブラ科と同様の神経毒で、ハブやマムシの数十倍もの強さがあると言われています。
世界の毒ヘビランキングで、トップ10のうち半数をウミヘビが占めるほどです。
もし咬まれると、麻痺や痺れ、筋肉痛や呼吸困難といった症状があらわれます。
最悪の場合、心臓麻痺を起こして死に至ることもあります。
咬まれた時の応急処置
もし咬まれてしまったら、水中である場合は速やかに陸に上がりましょう。
応急処置としてまずは、傷口よりも心臓に近い部分をタオルなどで縛りましょう。
そして傷口を洗い流しながら毒を絞り出します。
すぐにでも毒を出す必要があるので、”ポイズンリムーバー”という器具を持っていると便利でしょう。
また、日本茶や紅茶に含まれるタンニンには毒を中和させる作用があります。
できるだけ濃い目のものを傷口にかけましょう。
いずれにしても、できるだけ毒を絞り出したら速やかに医療機関を受診してください。
ちなみに、ウミヘビの場合、咬まれたからといって必ずしも症状が現れるとは限りません。
ウミヘビの牙は短いため、一度咬んだだけでは毒を注入することが難しいようです。
とはいっても決して油断はできないため、咬まれた場合は必ず適切な処置を施しましょう。
まとめ
ウミヘビには、爬虫類に分類される種と魚類に分類される種がおり、毒を持つのは爬虫類に分類されている種です。
とても強い神経毒を持つ種が多く、咬まれると麻痺や呼吸困難を起こし死亡する可能性もあるため非常に危険な毒です。
海中で咬まれた場合は、麻痺のせいで溺れてしまう危険性もあります。
しかし、冒頭でも述べたように、本来ウミヘビは自ら積極的に襲ってくることはありません。
誤って陸地で踏んでしまったり、ちょっかいを出すことによって咬まれた例があります。
ウミヘビを見かけたらつい興奮してしまうかもしれませんが、思わぬ事故にならないためにも決して近づかないようにしましょう。