日本でハエと言えばブンブン飛び回ってうるさいだけの存在ですが、アフリカには人間の生き血を吸い、時に命を奪う恐ろしいハエが存在しています。
そのハエこそがツェツェバエであり、「アフリカ睡眠病」を引き起こす原因となる昆虫で、「吸血バエ」や「死神」と呼ばれ恐れられています。
今回の記事では、ツェツェバエの生態や媒介するアフリカ睡眠病の症状や治療について解説します。
目次
ツェツェバエとは
ツェツェバエは、ハエ目・ハエ亜目・環縫短角群・ハエ下目・ツェツェバエ科に属する吸血性昆虫の総称です。
英名の総称は「tsetse fly」ですね。
ツェツェバエ科1科に、グロッシナ属1属のみ存在していて、グロッシナ属には23種8亜種が存在しています。
23種8亜種は、大きく3つのグループに分かれます。
・ローデシアトリパノソーマを媒介する「Morsitansグループ」
・ガンビアトリパノソーマを媒介する「Palpalisグループ」
・上記以外の「Fuscaグループ」
ちなみに「ツェツェ」とは、ボツワナのセチュアナ語「牛を倒してしまうハエ(家畜を殺すハエ)」に由来しています。
分布域、どんな場所に生息している?
ツェツェバエの分布域は、「ツェツェベルト地帯」と呼ばれるアフリカ大陸の北緯15度から南緯20度の範囲になります。
生息地は種によってさまざまで、熱帯雨林・乾燥地・マングローブ林などで、特に水辺を好みます。
体の特徴
ツェツェバエの体長は、中型種で6~9㎜、大型種で10~14㎜になります。
頭の下から前方に突き出している口吻は、硬化して針のようになり、血を吸いやすくなっています。
口の部分以外は、典型的なハエの姿をしていますね。
繁殖の方法
ツェツェバエは「胎生」、つまり赤ちゃんを産むハエで、これは昆虫では非常に珍しいですね。
メスは子宮内にたった1つ卵を持ち、その卵は子宮内でふ化し、ふ化した幼虫は6~7日間ほどミルク腺とも呼ばれる子宮付属腺から栄養を吸収して成長します。
幼虫は前蛹(ぜんよう)になると産み落とされ、その後、倒木の下・木の根元・岩陰などの土に中に潜り蛹化します。
蛹は黒褐色で爆弾型をしていて、30~40日後に羽化します。
1匹のメスは、生涯にわたり6~8回出産すると言われています。
生涯にわたる出産回数の少なさや、1回の出産で生まれる子の数の少なさは、まるで人間を含む高等動物にも似ていますね。
ちなみに、ヘビには「卵胎生」が多いですが、こちらはメスのお腹の中でふ化しても、仔蛇は栄養を卵黄から摂取してお腹の中で成長します。
ツェツェバエの幼虫は直接母親から栄養をもらうので「胎生」となるのですね。
ツェツェバエの食事は生き血?
ツェツェバエの食性は特殊で、哺乳類や鳥類の血液を栄養源としています。
ゆえにツェツェバエは吸血性のハエ「吸血蠅」になります。
なんだか悪魔っぽいですね。
ちなみに、種や環境によって特定の動物を好む傾向があることが知られています。
動物の呼気に含まれる二酸化炭素を頼りに飛んできて、1回の吸血で40~150mgの血を吸います。
一般的に知られる吸血昆虫に蚊がいますが、蚊の場合は産卵のためにメスが吸血するだけです。
ところがツェツェバエの場合、血は「食事」であるため、オスもメスも血を吸います。
ツェツェバエの危険性、アフリカ睡眠病とは
ツェツェバエは人間を永遠の眠りに誘う危険なハエとして有名ですが、ツェツェバエ自体には毒はありません。
ツェツェバエに血を吸われると、刺された部分から病原体である寄生性原虫トリパノソーマが体内に侵入します。
トリパノソーマには、”ガンビアトリパノソーマ”と”ローデシアトリパノソーマ”の2種類があります。
ツェツェバエは、人間では「アフリカ睡眠病」、家畜では「ナガナ病」と呼ばれる「アフリカトリパノソーマ症」の病原体を媒介するハエなのです。
「アフリカトリパノソーマ症」は、アフリカ睡眠病・催眠病・眠り病とも呼ばれます。
アフリカ睡眠病の症状は第1期と第2期があります。
第1期は、発症して間もなく発熱・頭痛・関節痛といった風邪に似た症状が出ます。
そして、進行するとリンパ節が腫れ上がり、さらに貧血や心臓や腎臓の病気を引き起こします。
第2期に入ると、神経痛、錯乱などの精神障害などが見られます。
さらに睡眠周期が乱れ朦朧とした状態が続き、やがて昏睡状態に陥り、死に至ります。
正確な数はわかりませんが、アフリカでは年間数万~数十万もの人がアフリカ睡眠病で亡くなっているとされます。
「ツェツェベルト地帯」の住人にとって、ツェツェバエは「魂を狩る死神」「眠りの呪いをかける悪魔」に他なりません。
アフリカ睡眠病の治療と予防法は?
治療法ですが、第1期には「ペンタミジン」「スラミン」の静脈注射か筋肉注射などを行います。
第2期には「エフロルニチン」「メラルソプロール」などが使われます。
また、第2期に使われる治療薬「メラルソプロール」は猛毒のヒ素を含むため、副作用が強く、投与された患者の3~10%は副作用で砒素性脳症になり、その内10~70%が命を落とします。
発症すれば悲劇、治療も命がけ、これだけ恐ろしい病気であるにも関わらず、「アフリカトリパノソーマ症」は予防接種のワクチンがありません。
このため、毎年1万人が新たに感染しています。
予防方法は“ツェツェバエに刺されないように自衛する”しかありません。
虫よけスプレーや厚手の衣服で血を吸われないようにしますが、外国からくる裕福な観光客はこのような対策ができても、貧困国が多い「ツェツェベルト地帯」の住人は難しいでしょうね。
まとめ
ツェツェバエは、アフリカのツェツェベルト地帯に生息している吸血ハエです。
ツェツェバエに血を吸われると、病原体である寄生性原虫トリパノゾーマが体内に侵入し、アフリカ睡眠病に感染する恐れがありますます。
ツェツェバエは非常に恐ろしいハエですが、私たち日本人がツェツェバエに気を付けるのは、発生国に旅行に出かける時ですね。
都市部では心配ないそうですが、アフリカに行ったら自然動物保護区に行って動物を見てみたいものですが、やはり自然が多い場所ほど気をつけないといけません。
渡航先の国で注意喚起していますので、注意事項などをしっかり読んで“自衛”してくださいね。