皆さんはツマアカスズメバチという種類のスズメバチをご存知でしょうか。
恐らく、スズメバチは危険ということは知っているけど、種類までは分からないという方が多いと思います。
ツマアカスズメバチとは、インドネシアのジャワ島原産の外来種です。
現在、アジアやヨーロッパでこのハチの流入による影響が問題になっています。
日本でも2012年に長崎県の対馬で発見されて以来、生息地域が拡大してきています。
今回は、特定外来生物ツマアカスズメバチの生態と危険性についてご紹介させていただきます。
ツマアカスズメバチの生態
ツマアカスズメバチは、ハチ目スズメバチ科スズメバチ属のハチの一種です。
ツマアカスズメバチの体長は、働きバチが約20mm、女王バチが約30mmほど。
体色は全体的に黒色で、お腹の先端のみ赤みを帯びた色をしています。
食性は、成虫は樹液や蜜を好むのに対し、幼虫は肉食でハエやミツバチ、トンボを食します。
特にミツバチが好物で、幼虫のエサにするためにミツバチが狙われることが多いです。
一度獲物と決めた相手に対して執拗に攻撃を繰り返す習性をもち、非常に攻撃性が強いです。
巣は、初めは低木の茂みや地中に作りますが、働きバチの増加とともに地上15m以上の樹木の枝先に移動します。
営巣する巣は大きく、大きいものだと高さ2m、幅80cmもの大きさになることがあり、だいたい2000頭近くの働きバチが中にいると考えられています。
また、ツマアカスズメバチは都会にも適応できるので、マンションなどの壁などに巣を作ることもあります。
ツマアカスズメバチの生息域
さて、このツマアカスズメバチは現在、その生息地域が急速に広まっていて、日本だけでなく世界でも問題になっています。
まずアジアでの生息地域は、西はパキスタンから東は中国東部までほぼ全域に広がっています。
韓国では2003年に釜山で存在が確認されて以来、爆発的に個体が増えています。
ヨーロッパでは2005年ころから侵入が始まり、フランス、スペイン、ポルトガル、ベルギー、ドイツなどで確認されています。
ヨーロッパへの侵入はフランスから始まり、これは女王バチが中国からの植木にまぎれてきたためと言われています。
日本では、2012年に対馬で確認され、わずか1年で島の北部から南部まで広がってしまいました。
このときも、中国からの荷物に紛れ込んでいたことが原因と考えられています。
最近では、北九州市や宮崎県でも発見され、徐々にその生息地域が広がってきています。
2015年には、日本において、「特定外来生物」に指定されました。
ツマアカスズメバチによる影響
それでは、このツマアカスズメバチは増えることによって、一体どのような問題が出てくるのでしょうか。
生態系への影響
まず、生態系への影響が挙げられます。
ツマアカスズメバチが増加している地域では小型のスズメバチが多く、体が大きく攻撃性も強いツマアカスズメバチがいつの間にか虫の生態系の頂点に立ち、多くの昆虫を捕食してしまっています。
実際、韓国では在来種のスズメバチよりも生息数が上回り、生態系が崩れてしまった地域があるとの報告があります。
日本の対馬にも、小型のキイロスズメバチしか生息していなかったため、ツマアカスズメバチが増殖しやすかったと考えられます。
養蜂業、農林業への影響
次に、農林業、特に養蜂業への影響が問題視されています。
前述したようにツマアカスズメバチの好物はミツバチです。
ツマアカスズメバチが増えるにつれて、ミツバチの数が減少しているのです。
対馬ではニホンミツバチを使用した養蜂業が盛んですが、現在、ツマアカスズメバチの増加により甚大な被害が出ています。
一カ所の養蜂業者だけで、年間10箱以上の巣箱が全滅させられたという報告も出ているほどです。
ミツバチはスズメバチに巣を襲われると、皆で蜂球を作って撃退しようとしますが、ツマアカスズメバチの攻撃方法は巣への侵入ではなく、巣に戻る直前のミツバチを1匹ずつ狙うためミツバチは成す術がないようです。
ミツバチの減少は養蜂業だけではなく、受粉を用いた農作物にも影響が出ています。
カボチャやキュウリ、イチゴやメロンといった受粉を必要とする農作物はミツバチを利用して受粉させているのですが、そのミツバチが減少することによって人の手で作業を行わなくてはならなくなるのです。
人の手による受粉は効率性も品質も落ちるそうなので、農家にとっては大きな被害となります。
刺傷被害
最後に、人への影響が心配されています。
他のスズメバチ同様、ツマアカスズメバチによる刺傷被害が多数出ています。
ツマアカスズメバチの執拗に相手を襲う習性は人間に対しても同じで、一度狙われると逃げても刺されてしまう可能性が高いです。
また、都会では高層マンションなどに巣を作ることがあるので、住人が刺されてしまう場合があります。
今のところ日本では刺されたことによる死亡例はありませんが、台湾やマレーシア、インドネシアでは死者が出ているので、刺されないための注意が必要です。
まとめ
ツマアカスズメバチに限らず、さまざまな動植物において外来種が在来種に勝ることが多く、とても脅威に感じます。
食物連鎖の上位に立つものが変わると、下位の個体数も大きく変動し、絶滅してしまうものも出てくる可能性があるからです。
日本では今のところ対馬や九州の一部でしかその存在が確認されていませんが、いつどんな経路で広がっていくか分かりません。
生態系のみならず、農林業にも大きな影響を与えるとなると、ツマアカスズメバチの増加は食い止めなければなりません。
対馬や北九州市など、ツマアカスズメバチが生息している地域では、女王バチの捕獲や分布域モニタリング調査、船による他国からの侵入防止や監視など、これ以上増えないためのさまざまな対策を行っています。
完全に防ぐことは難しいかもしれませんが、こういった努力により少しでも増加が抑えられることを願うばかりです。
スズメバチについてはこちらの記事もどうそ
⇒スズメバチの生態と対策について。刺されたらどうすればいい?
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