殺人アリが日本上陸、そんなニュースが話題になったのは記憶に新しいですね。
この殺人アリとはご存知の通りヒアリ。
2017年5月20日に中国から運ばれてきたコンテナが神戸港で陸揚げされ、同26日にコンテナ内にヒアリのコロニーがあるのが発見されたのです。
6月に入り消毒したとはいえ女王アリは発見されず、新たに発見された個体がいたりとまだまだ警戒しなければならない状況が続く中、6月末には名古屋港でもヒアリが発見され、国内では2ヵ所目となってしまいました。
そして、7月に入ると大阪南港でついに女王アリが発見されてしまいます。
さらに、7月中旬には横浜港で幼虫やさなぎも含む700匹以上ものヒアリが発見され、すでに巣を作り繁殖していた可能性が高いという状況となってしまいました。
殺人アリと言われるヒアリ、一体どのようなアリなのでしょうか。
今回は、ヒアリ(火蟻)の毒性や症状、天敵や生態についてご紹介させていただきます。
ヒアリ(火蟻)とは?
ヒアリ(火蟻)とは、ハチ目スズメバチ上科アリ科に属するアリの一種で、特定外来生物に指定されています。
分類からも想像できるように、スズメバチに近い毒性を持つアリです。
体長は2~6mmと小型ですが、働きアリについては多型で大きさもさまざまです。
体色は赤茶色で、腹部は黒っぽく艶があるのが特徴です。
また、腹部の末端(お尻)には毒針があります。
ヒアリの原産地はブラジルのアマゾンです。
もともとは湿度の高い熱帯雨林に生息していたヒアリですが、異なる環境下でも適応できる能力があるため、徐々に生息地を広げていきました。
現在は北アメリカやフィリピン、中国、タイ、台湾、オーストラリアなどの太平洋周辺の国々にも生息しています。
こんなにも広がった原因は人間が他国に誤って持ち込んだためと言われています。
アマゾンでは他種の攻撃的なアリも存在したため生態系は守られていました。
しかし、ライバルのいない他国では別です。
外敵のいない北アメリカなどの新しい環境下では一気に増殖し、社会問題になっているのです。
日本には今回発見されるまでいないとされていましたが、同属である在来種トフシアリは生息しています。
ヒアリの生態
それでは、ヒアリの生活についてみていきましょう。
ヒアリは一つのコロニーを作りますが、一つのコロニーの中に1匹の女王アリからなる単女王制であるものと、複数の女王アリからなる多女王制の2種類が存在します。
多女王制の場合は、一つのコロニー内に数十匹の女王アリがいることがあります。
女王アリは1日に100匹ほどの卵を産むため、女王アリの数が多ければ多いほど繁殖数は多くなります。
そのためヒアリの巣は大きく、最大で4000万匹も生活することがあるようです。
ヒアリの巣は、公園や農耕地、裸地など少し開けた場所を好んで作られます。
都市部であっても住めそうな場所さえあればすぐに巣を作ってしまいます。
ヒアリの巣は土で作られますが、直径25~60㎝、高さ15~50㎝ほどのドーム状のアリ塚となり、ここまで大きなアリ塚をつくるのは日本の在来種ではいないと言われています。
巣の中にはたくさんの巣部屋があり、すべてトンネルによって繋がっています。
地下深く作られるため、夏の日差しや冬の寒さからも守れる快適な住みかとなります。
ヒアリの食性は雑食で、節足動物やトカゲ、ヘビなどの爬虫類、ネズミなどの小型哺乳類、樹液や花の蜜、種子などさまざまです。
ヒアリは非常に攻撃的な性格で、自身より大きな相手であっても果敢に襲いかかります。
獲物を見つけたらアゴを使って相手に食らいつき、お尻にある毒針を何度も突き刺します。
ヒアリの毒性は非常に強いため、小さなアリとはいえ集団その毒でもって襲いかかられたらかないません。
ヒアリの増殖しているアメリカなどでは、家畜や人が襲われ刺傷するケースも多発しており深刻な問題となっています。
ヒアリの毒性と症状、もし刺されたら?
ここでヒアリの毒性についてみていきたいと思います。
気になるのはヒアリの毒の危険性、つまり万が一ヒアリに刺されたらどうなるか?だと思います。
結論から言いますと、致死率は低いとされていますが海外では死亡例もあるそうです。
致死率が低いからと言って油断できるほど軽い症状でもないようです。
ヒアリの毒の成分は、水不溶性のアルカロイド系であるソレノプシンが9割以上を占めています。
刺されると、非常に強い痛みがあり、ひどい場合は患部が水疱状に腫れ、全身にじんましんが出ることもあります。
腫れは数週間続き痕が残ることもあるほどです。
他にも、眩暈、吐き気、頭痛、痙攣、低血圧、呼吸困難、意識障害といった症状があらわれます。
症状の度合いは人によってさまざまですが、アナフィラキシーショックを起こすこともあり、そうなると命を落とす危険性もあります。
ヒアリの毒はスズメバチの毒と似ているため、ハチに刺された経験のある方、もしくはハチに刺されてアレルギー反応が起きたことがある方は注意が必要です。
もしヒアリに刺されてしまったら、患部から無理に毒を出そうとはせず、30分ほど安静にしましょう。
その間にアナフィラキシーショックが疑われる症状があらわれたらすぐに救急車を呼んでください。
アナフィラキシーショックが起こらず緊急性がなくとも、念のため病院を受診したほうが良いでしょう。
ヒアリによる被害
現在、アメリカなどのヒアリの生息地では、年間数万人以上の人がヒアリの被害に遭っているそうです。
また、ヒアリの被害は人だけではありません。
ヒアリは農耕地にも侵入し、さまざまな作物を食い荒らします。
また、作物の根っこまでも食べてしまうため、農作物の被害が深刻化しています。
農業以外にも、都市部の地下に侵入することによる道路の陥没や建物倒壊、電気回路に入り込むことによる電気設備の故障といった問題もあります。
こういった多くの被害が相次ぎ、アメリカでは毎年数億ドルの損害が出ていると言われています。
非常に深刻化していますが、アメリカにはヒアリの天敵はいないため、人為的に駆除しない限りヒアリの数は減りません。
ヒアリ駆除のための薬剤散布などは行っているようですが、どの程度効果が出ているのかは定かではありません。
ヒアリの天敵
ヒアリの天敵は、ノミバエというハエです。
ヒアリの原産地であるアマゾンに生息しています。
このノミバエはヒアリにとって非常に厄介な存在で、まずノミバエは腹部にあるトゲをヒアリに突き刺して、一瞬のうちに200個近い卵を産みつけて寄生させます。
その後ヒアリの体内で孵化した幼虫は体液を吸って成長し、徐々にヒアリの頭に向かって移動を始めます。
頭に入ると脳を食べ始め、幼虫から分泌される酵素によって頭部はドロドロに溶かされ、最終的にヒアリは死んでしまうのです。
これに注目したアメリカは、ヒアリ対策としてノミバエを導入しているようです。
ヒアリの増殖を抑える効果が期待されています。
根絶するためには?
前述したように、ヒアリはもともと南米原産のアリですが、北アメリカやフィリピン、中国、タイ、台湾、オーストラリアといった国にまで生息域を広げ続けてきました。
しかし、ニュージーランドだけはヒアリの定着を食い止め、根絶に成功しています。
ニュージーランドでは、まず2001年にヒアリの巣が発見されました。
ヒアリ発見の報告を受けニュージーランド農務省は早急に対策チームを組み、発見された巣の駆除、周辺地域のモニタリング調査、を行います。
そして、2年後の2003年に根絶宣言を出すことができました。
根絶に成功したニュージーランドと、定着してしまった諸国の違いは何かと言えば、初期対応の速さと正確さでしょう。
日本にとっての初期対応の時期はまさに今です。
今どれだけの対策が取れるかで、この先ヒアリが定着してしまうかどうかの分かれ道となるのではないでしょうか。
まとめ
ヒアリは、非常に強い毒性と攻撃性を持つ南米原産のアリです。
スズメバチに近い毒性を持つため、刺されるとアナフィラキシーショックを起こす危険性があります。
そのため、人間の大人でも刺されると死亡する事がある非常に危険なアリなのです。
日本でもヒアリの上陸が確認された今、もはや他人事ではありません。
駆除しきれずに知らぬ間に大繁殖してしまう危険性があるのです。
もしヒアリを見つけたら、むやみに駆除しようとせず、嚙まれない事を一番に気を付けましょう。
そして、自治体か環境省の地方環境事務所に連絡を入れることも忘れないようにしましょう。