皆さまはサシガメという生き物をご存知でしょうか?
おそらくカメの仲間だと考える方も多いでしょう。
実は、サシガメとはカメでなく昆虫です。
サシガメはカメムシの仲間で主に南米に生息しているのですが、サシガメに刺されるとシャーガス病という死の危険性もある病気にかかる可能性があるのです。
人を刺すカメムシ、いったいどういった生き物なんでしょうか。
今回は、このサシガメの生態や媒介するシャーガス病についてご説明したいと思います。
サシガメとは
ベネズエラサシガメ 出典:wikimedia
サシガメとは、半翅目サシガメ科に属する昆虫のことです。
簡単に言うとカメムシの仲間ですが、分類上アメンボにも近い種であると考えられています。
世界中で約6500種存在しており、今まで分類上は32亜科に分けられていましたが、近年では25亜科が認められています。
日本には8亜科50種ほどが生息しています。
サシガメ(刺亀虫)の名前の由来は、彼らに刺されると激痛に襲われることからきています。
特徴と生態
ブラジルサシガメ 出典:wordpress
サシガメの体長は小型のものから大型のものまでさまざまで、体形は一般的なカメムシに比べて細長い種が多く、糸のように細長いものや扁平状のものなど、体形についても種によってさまざまです。
共通している特徴としては、
・体が固い
・頭部が一般的なカメムシに比べると小さい
・複眼が球形で突出していて単眼は基本的に2個
などが挙げられます。
また、口器の内部には細く鋭い口吻が入っており、口吻を前後にこすって特有の音を発します。
基本的にサシガメは昆虫などを捕食しますが、中には人間を含む哺乳類などから吸血する種が存在して感染症を媒介することがあります。
吸血性の種は、世界に存在する約6500種のうちおよそ90種と言われています。
サシガメが媒介する感染症としてはシャーガス病が有名で、最悪の場合死に至る病気として問題になっているのです。
生息域は?
サシガメは熱帯地域に生息していることが多く、特に中南米に多く生息しています。
日本では沖縄本島や宮古島などにオオサシガメ、本州から九州にかけてシマサシガメといった種が生息しています。
サシガメの多くの種は山に生息しており、樹上で生活するもの、地上で生活するものなどさまざまです。
しかし、人間の家屋にいる昆虫を狙って屋内に棲みつく種も存在し、自然と人間と接触する機会が出てきます。
ヨーロッパでは、輸入によって運ばれてきた種が人間に寄生するトコジラミを捕食するために人間に近づき、結果として人間を刺すなどの被害が出ています。
シャーガス病とは?
さて、シャーガス病とはいったいどういった病気なのでしょうか。
日本に住んでいる私たちにとっては初めて聞く病気かも知れません。
シャーガス病が問題となっているのは、サシガメが多く生息する北米南部や中南米です。
シャーガス病とは、
“クルーズトリパノソーマ”という寄生虫が人間や動物に寄生し、腸管や心臓、筋組織などで増殖することにより心臓肥大、巨大結腸といった症状を引き起こし、最悪の場合心臓破裂で死に至る
という病気です。
シャーガス病という名はクルーズトリパノソーマ原虫を発見したカルロス・シャーガス医師の名前からつけられたようです。
このクルーズトリパノソーマは、感染したサシガメの糞の中に存在します。
サシガメは大抵、夜間に人間が寝ている間に吸血し、その場で糞をします。
その糞がうっかり傷口に入ったり、糞を触った手で目や口を触ったりすることでクルーズトリパノソーマが人間の体内に侵入するのです。
症状
クルーズトリパノソーマに寄生されたからといってすぐにシャーガス病を発症するわけではありません。
感染後、数週間から数カ月の間は無症状、あるいや熱や倦怠感、頭痛といった軽い症状しかなく、シャーガス病を疑うような症状はあらわれません。
この時期を急性期と言います。
ただ、サシガメに刺されたり糞が入ることにより、ロマーニャ兆候という瞼が腫れる症状があらわれ、この症状は数週間続きます。
その後は慢性期となり、数年から数十年の潜伏期間があります。
そのまま発症しないで終わる場合もありますが、長い潜伏期間ののち、感染者の約25%で不整脈や心臓肥大、巨大食道、巨大結腸といった心臓疾患や消化器疾患の症状があらわれます。
不整脈から突然死を起こすこともある恐ろしい病気なのです。
中南米においての感染者はおよそ800万人いると言われ、そのうち1万人以上が毎年亡くなっています。
治療法
ベネズエラサシガメ 出典:wikimedia
それでは、シャーガス病に感染したらどのような治療が行われるのでしょうか。
まず、急性期に感染に気付いた場合は、ベンズニダゾールやニフルチモックスといった薬でクルーズトリパノソーマを殺すことができます。
これらの薬はまだ心臓などに症状があらわれていない慢性期初期にも使用することができます。
しかし、ベンズニダゾールにはアレルギー性皮膚炎、食欲不振、不眠症、ニフルチモックスには食欲不振や多発性神経障害、吐き気、眩暈といった副作用が40%の確率で出るため、服用には細心の注意が必要です。
また、慢性期中期以降、心臓などに症状があらわれてしまうと薬による治療は効果がありません。
心疾患の場合はペースメーカーの埋め込みや心臓移植、消化器疾患の場合は開腹手術というように、外科手術でしか対処できなくなるのです。
シャーガス病を予防するには?
現在、シャーガス病を予防するワクチンはありません。
よって、シャーガス病に感染しないためにはサシガメに刺されないようにするしかないのです。
家屋に棲みつくサシガメは、ベランダの下やコンクリート、土の中、天井の割れ目など目立たないところに潜むことが多いです。
日中はこういった目立たないところに潜み、夜間に吸血活動を行うのです。
夜間の吸血を防ぐためには、長袖長ズボンの着用、殺虫剤を塗布した蚊帳の使用、虫よけスプレーの噴霧といった対策をとると良いでしょう。
その前に、サシガメの家屋への侵入を防ぐ努力も必要です。
また、サシガメは寄生した人の血液中に存在するため、輸血や臓器移植によって感染する可能性もあります。
そのため、血液検査によるスクリーミングも必要とされます。
さらに最近の研究では、クルーズトリパノソーマはアサイーやサトウキビの生ジュースの中にもいることが分かっています。
南米へ旅行に行った際は、アサイーやサトウキビの生ジュースをうっかり飲まないように気をつけましょう。
日本のサシガメは大丈夫?
ここまでの話を聞いて気になるのは、日本にいるサシガメも危険なのか?ですよね。
幸い、日本に生息するサシガメにはクルーズトリパノソーマは寄生していないため、もし刺されてもシャーガス病に感染する心配はないと言われています。
しかし、中南米に旅行に行った際に感染し、日本に帰国してから発症したという報告例はあります。
日本ではシャーガス病と特定できる医師がほとんどいないため、治療も難しいとされています。
ただ、シャーガス病は人から人に感染する恐れはないため、その点は安心して良いでしょう。
まとめ
サシガメは主に中南米に生息しているカメムシの仲間で、吸血性の種もいます。
吸血性のサシガメは、シャーガス病という病気を媒介することがある危険な昆虫です。
シャーガス病とは、数年から数十年の潜伏の後、心疾患や消化器疾患を引き起こし死亡することもある病気です。
現時点では、中南米に旅行に行かない限りシャーガス病に感染する心配はありません。
しかし、ヒアリの件と同様、クルーズトリパノソーマが寄生したサシガメが輸入によって日本にやってくる可能性はあります。
日本にやってきた個体が繁殖するかどうかは分かりませんが、このご時世絶対大丈夫ということはないのです。
万が一に備え、シャーガス病についての最低限の知識を入れておいたほうが良いかもしれません。