皆さんはミノカサゴという魚をご存知ですか。
大きな胸ビレを広げてゆったり泳ぐ姿から海の貴婦人と呼ばれている魚で、ダイビング好きの方にはお馴染かもしれません。
水族館で見たことがあるという方もいるでしょう。
このミノカサゴ、泳いでいる姿はとても優雅ですが、そのヒレには毒針があり、刺されるととても痛いのです。
もしミノカサゴに刺されてしまった場合、いったいどうすればよいのでしょうか。
今回は、ミノカサゴの種類や毒性、刺された時の症状と処置についてご紹介させていただきます。
目次
ミノカサゴの生態
学名 | Pterois |
英名 | Luna lionfish |
分類 | カサゴ目フサカサゴ科ミノカサゴ属 |
分布・生息域 | 北海道南部以南、インド洋、太平洋 |
大きさ | 15cm~30cmほど |
まずはミノカサゴの生態についてご説明します。
ミノカサゴはカサゴ目フサカサゴ科に属する魚で、日本では5属12種がいます。
ミノカサゴは漢字で“蓑笠子”と書き、ミノカサゴのヒレを蓑や菅笠にたとえて付けられた名前と言われています。
また、ミノカサゴは地方によって呼び名が異なり、ハナオコゼ、マテシバシ、ヤマノカミなどという別名があります。
日本においての生息地域は北海道南部以南の沿岸で、沿岸の浅いところや水深50mほどの深い海にある岩礁域や砂底に多く生息しています。
水中では単独で生活しており、主にエビなどの甲殻類や小魚を捕食しています。
寿命は7年~15年です。
体長は15cm~30cmほどの楕円形で、体色は少し赤みのある肌色をしています。
体表には茶色や暗褐色などの縞模様があり、各ヒレには黒っぽい斑点が見られます。
この縞模様は、毒を持っているぞという外敵への警告を示すとともに保護色の役割を果たしています。
そして何より特徴的なのは大きなヒレで、特に大きな胸ビレや背ビレをユラユラとたなびかせて泳いでいます。
ミノカサゴにはこの大きなヒレを使ったさまざまな行動が見られ、外敵が近づいたらヒレを立てて威嚇したり、餌となる小魚を捕食する際も、大きな胸ビレを広げて小魚を狭いところに追い込んだりします。
しかし、その背びれや腹びれ、尾びれには毒腺のある棘があるので、うっかり刺されてしまうと強烈な痛みが襲ってきます。
ミノカサゴの種類
ミノカサゴの種類のうち、日本にいる種をいくつかご紹介します。
いずれの種も背びれ、腹びれ、尾びれに毒棘があります。
ミノカサゴ
日本では、北海道南部以南の各地の海で見られます。
・尾びれに模様がない
・アゴの下にも模様がない
・目の上のツノ(皮弁)が短い
・ウロコがはっきり目立つ
事が特徴です。
英名は、Luna lionfish(ルナ ライオンフィッシュ)とカッコイイ名前がついています。
ハナミノカサゴ
ハナミノカサゴはミノカサゴよりも南方の海に生息しており、日本だと相摸湾以南、琉球列島ではハナミノカサゴの方がよく知られています。
ミノカサゴとハナミノカサゴは良く似ていますが、一番見分けやすいのは、尾びれの模様の有無です。
ミノカサゴは尾びれに模様がありませんが、ハナミノカサゴは黒っぽい模様が入っています。
他にも、ハナミノカサゴは目の上のツノが長く、アゴの下にも模様があるのが特徴です。
キミオコゼ
日本では高知県以南の海に生息しています。
・背びれが針のように細い
・胸びれに黒斑がない
・体に入る白い帯模様の幅が狭い
・尾びれの付け根に水平に走る2本の白い線がある
事が特徴です。
ネッタイミノカサゴ
日本では、伊豆半島以南の海に生息しています。
・背びれが針のように細い
・胸びれから細くて長い棘がのびている
・目の上のツノが長く縞模様がある
事が特徴です。
ネッタイミノカサゴは胸びれの膜が途中までしかなく、胸びれがヒモみたいになっています。
キリンミノカサゴ
南日本の太平洋側、琉球列島に生息しています。
キリンミノカサゴは、
・ウチワのような胸びれ
・尾びれの付け根のT字模様
が特徴です。
キリンミノカサゴは、ミノカサゴの中ではもっとも強力な毒を持っています。
セトミノカサゴ
相模湾以南の、砂や泥などの柔らかい海底をもつ場所に生息しています。
・胸びれの美しいブルー模様
・尾びれの上部に1~2本の伸びた軟条がある
事が特徴になります。
セトミノカサゴは、他のミノカサゴに比べると出会える機会は少ないようです。
ミノカサゴの毒棘
ミノカサゴはとても派手できれいな姿をしており、パッと見ただけでは棘の存在は分かりにくいですが、背びれと腹びれ、尾びれには針のように鋭く尖った棘があります。
普段は皮膚で覆われた状態になっており、外敵が棘に触れた瞬間皮膚が破れ、毒が注入されるしくみになっています。
毒はたんぱく質で構成されていますが、詳細は分かっていないようです。
ミノカサゴの棘の毒性は非常に強く、刺された瞬間は電気が走ったかのような刺す痛みを感じ、すぐに強烈な痛みが襲ってきて、痛みは長時間続きます。
患部は、赤く腫れあがり、眩暈、吐き気、頭痛といった症状も引き起こされる場合があります。
ミノカサゴの地方名でナヌカバシリ(七日走り)というのもありますが、これはミノカサゴに刺されると痛くて七日間走り回るという意味だそうです。
今のところミノカサゴに刺されたことによる死亡例は報告されていませんが、それだけ強力な毒であるならば油断はできません。
場合によっては刺された痛みで失神することもあるようです。
ダイビングの際に刺された場合は、くれぐれも溺れないように注意してください。
ミノカサゴに刺されてしまった場合の対処法
次に、ミノカサゴに刺されてしまった場合の対処法です。
1、まずダイビング中であれば速やかに泳ぐのをやめて陸にあがってください。
2、そして患部を真水できれいに洗い、毒を絞り出しましょう。もし棘が残っている場合は棘も抜いてください。
ポイズンリムーバーという毒を絞り出す道具があるので、海に入る際には念のため準備しておくと良いでしょう。
3、そして患部を45℃以下のできるだけ熱いお湯に、30分~1時間程度浸けてください。
ミノカサゴの毒は、熱により毒が不活化されて痛みが少し和らぎます。
やけどに注意しましょう。入浴時より少し熱めのお湯程度です。
4、応急処置が済んだら、仮に症状が軽かったとしても病院を受診しましょう。
もし症状がひどい場合には迷わず救急車を呼ぶことをおすすめします。
ミノカサゴの注意点
ダイビングをしていると、ミノカサゴは比較的良く見かける魚です。
見た目が派手なのでつい近寄りたくなりますが、獰猛な性格であるため、ちょっかいを出したり、写真と撮ろうとしつこく追いかけたりすると、背びれを立てて襲ってくることがあります。
見かけても、離れた場所から観察するだけにしておきましょう。
また、夜行性であるため、昼間はサンゴや岩礁などのかげに隠れており、気づかずに触れてしまったということもあるようです。
ミノカサゴの棘は針のように尖っているため、仮に厚手のグローブをしていても貫通してしまいます。
何が潜んでいるか分からないので、ダイビング中はむやみに手を出さないように気をつけましょう。
また、ミノカサゴは観賞用としても人気の魚です。
水槽を洗う際に、うっかり棘に触れて刺されてしまったという事故も多いので、取り扱いには気を付けてください。
まとめ
ミノカサゴは日本各地で見られる、背びれを中心に毒棘を持つ魚です。
もし、ミノカサゴに刺されたら、毒を絞り出し、45℃以下のできるだけ熱いお湯に患部を浸して、医療機関を受診しましょう。
ミノカサゴが、大きなヒレをなびかせて泳ぐ姿はとてもきれいで癒されます。
水族館にもいたらつい見入ってしまうほどですが、そのヒレや体の模様にはちゃんと意味があるのですね。
棘に刺さるだけでも痛いのに、毒によってさらに強い痛みが続くなんて考えただけでも恐ろしいです。
どんなにきれいで魅力的な魚でも、遠くから眺める程度にとどめておくのが一番ですね。