水族館の楽しみのひとつであるショータイム。
イルカやアザラシ、オットセイにアシカ、ペンギンなど、多くの動物たちがダイナミックでユーモアあふれる曲芸で私たちを楽しませてくれます。
そんなショーの人気者でもあるアザラシは、愛嬌ある可愛らしさから漫画にもなったゴマフアザラシをはじめお茶の間ではお馴染みの動物ですよね。
でも、同じアザラシの仲間だからと言っても、全てのアザラシがゴマちゃんのようだとは限りません。
中には人間に危険を及ぼすことがあるアザラシもいるのです。
それが「ヒョウアザラシ」です。
今回は、ヒョウアザラシの天敵、生態と危険性についてご紹介させていただきます。
豹柄入りのヒョウアザラシ
「ヒョウアザラシ」は、食肉目アザラシ科、ヒョウアザラシ属に分類される哺乳動物です。
体長は雄が2.8~3.3m、雌が2.9~3.6m、体重は最大で雄が約300kg、雌が約500kgと、雄よりも雌の方が大きいんです。
灰色の体には黒い斑点があり、それが豹に似ていることからこの名がつきました。
南極大陸周辺からフォークランド諸島・サウスジョージア島の海域にかけて生息しています。
中にはより温暖な水域を好む固体も存在するため、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカでも少数が確認されています。
首は長く伸ばすことができて柔軟性があり、頭は爬虫類のような形状をしています。
にょろりとした細長い体型に大きな頭、目の下まで避けた大きな口と強靭な顎に鋭い歯を持つヒョウアザラシ。
メジャーどころのゴマフアザラシと比べてみてもまるで別物ですね。
謎多きヒョウアザラシの生態
ヒョウアザラシがどんなものを食べているかというと、主にはナンキョクオキアミという小さなエビのような生き物を食しています。
牙のように鋭く伸びた前歯とは反対に奥歯は臼歯になっており、オキアミなどを摂るための三叉路の形状をしています。
他にも、ペンギンもよく食べ、魚類のほか、オットセイや別種のアザラシなども捕食します。
肉からオキアミまで、その幅広い食性はこの歯のお陰でもあるんですね。
ヒョウアザラシは、群れは作らず、基本的に単独行動をとっています。
1年に1回、11月ごろに1頭の子供を産み、その後4年ほどかけて大人のヒョウアザラシになります。
寿命は、約25年ほどではないかと言われています。
泳ぐ速度はアザラシの中でもかなり速く、最大で時速40キロに達するとされています。
また、ヒョウアザラシは海中で独特の音を鳴らすことでも知られています。
これは他の南極アザラシも同様です。
普段は単独行動のヒョウアザラシですが、クジラやシャチ、イルカのように、何か仲間内で伝達し合っているんでしょうか?
実は、ヒョウアザラシの生態については未だよく判っていない点が多いのです。
それはヒョウアザラシを含めた、多くの南極動物たちに共通している点でもあります。
まだまだ謎多き動物と言ったところでしょうか。
岩に擬態?狩りの方法
ヒョウアザラシはシャチ同様、海のギャングとして食物連鎖の頂点に君臨しています。
単独行動のヒョウアザラシは、シャチのようにチームプレーで狩りをしません。
では一体どんな方法で狩りをするのでしょう?
生態研究のために撮影された資料などから、ヒョウアザラシの狩りはいわゆる待ち伏せスタイルが多いようです。
岩場の陰などで待ち伏せして、そこにやって来た獲物に襲い掛かるのです。
強靭な顎と歯で噛み付くと、激しく振り回ながら引きちぎり深い海に引きずり込む、というパターンのようです。
岩場に擬態することもあるようなので、獲物としてはたまったもんじゃありません。
捕らえた獲物を振り回すのは、丸呑みすることができないからだとされています。
遊泳速度もかなりの速さを誇るヒョウアザラシですから、まさに最強の捕食者ですね。
人も襲うヒョウアザラシ
ヒョウアザラシが人を襲った例も、何件か報告されています。
1985年、スコットランドの探検家が氷の上を歩いていた時、ヒョウアザラシに襲われました。
突然足元の氷を突き破りヒョウアザラシが現れ、足に噛み付かれましたが、仲間たちによって助け出されました。
ほかにも100mに渡ってヒョウアザラシに追いかけられたという例もあったようです。
これは人間を何かの獲物と誤認したのではないかとされています。
また、痛ましい死亡事故も起きています。
2003年、イギリスの海洋生態学者が、南極の半島部近くで潜水している時に、噛み付かれて海中に引きずり込まれてしまったのです。
すぐにメンバーが救命ボートで救出しましたが、残念なことに息を吹き返すことはありませんでした。
これがヒョウアザラシが、初めて人を殺した事件とされています。
しかし、何が原因でヒョウアザラシが攻撃してきたのかは、未だ解明されていないそうです。
恐いだけじゃない?人間との感動動画
そんな悪名高いヒョウアザラシですが、過去には人間との驚くべき感動動画が注目を集めました。
それはナショナルジオグラフィック誌の記事の取材で南極の海に潜り、ヒョウアザラシの撮影をしたカメラマンの動画です。
そのカメラマンのインタビュー動画がこちら↓
ある1匹の雌のヒョウアザラシが、撮影をしているカメラマンにエサを与える、というものでした。
生きたペンギンをカメラマンに食べさせることに失敗(?)したヒョウアザラシは、次には死んだペンギンを運んできます。
それでも食べないカメラマンに対し、なんと自分が目の前で食べて見せたのです。
食べ方を教えられたカメラマンは「自分史上最高の4日間」とその時の心情を語っています。
母性が強かったのかどうかはわかりませんが、やっぱり謎多きヒョウアザラシです。
天敵っているの?
最強捕食者の名を欲しいままにしているヒョウアザラシですが、時には捕食される側になることもあるとされています。
そんな天敵とも言える相手としては、シャチや大型のサメ、さらにはゾウアザラシによって殺されたとされる報告が過去にあるのです。
しかし、これらの報告も詳細は不明であり、正確なところは定かではありません。
かなりの遊泳速度を誇るヒョウアザラシですから、いくらシャチと言えどもそう簡単に捕まえることは難しでしょう。
サメの種類にしても明らかにはなっていませんし、どのくらいの信憑性のある報告なのかは疑問です。
ただ何らかの理由で怪我を負っていたり、弱っている状態であれば可能性は無くはありません。
どんなに最強であっても、手負いであればいつ襲われても不思議は無いからです。
こうなると捕食される、殺されるというよりは、単に自然の摂理とも言えますね。
まとめ
ヒョウアザラシは、我々が抱くアザラシのイメージと違い、気性が荒く人間も襲ったことがあるアザラシです。
まだまだ多くの謎に包まれているヒョウアザラシ。
その容貌や可愛らしいペンギンを襲う捕食者として、残忍なイメージを持たれてしまうことも少なくありません。
私たちは捕食される側の弱きものに、ついかわいそうと感情移入してしまいがちです。
しかしそれは生態系を維持していくためには必要不可欠なものです。
どんなに最強の捕食者であっても、自分が生き延びるため以外の無駄な殺生はしません。
そこが自然動物の素晴らしさ、美しさ、尊さなのかもしれません。