食べ物やゴミ、家畜などにたかるハエは、私たち人間にとって害虫とみなされています。
部屋にハエがいるだけで羽音が気になり不快な思いをしますよね。
また、ハエは病原菌を媒介することもあり、基本的に良いイメージはありません。
しかし、私たち日本人にとってはそこまでの存在です。
海外には、他の生き物を利用して人や動物に寄生し、皮膚に留まり体内の肉を食べるハエがいます。
その名もウマバエ(ヒトヒフバエ)。
考えただけでも恐ろしいことですが、一体ウマバエとはどのような生き物なのでしょうか。
今回は、ウマバエ(ヒトヒフバエ)の生態、寄生された時の症状や治療についてご紹介させていただきます。
目次
ウマバエ(ヒトヒフバエ)とは
ウマバエ(ヒトヒフバエ)は、双翅目ヒツジバエ科に属する昆虫です。
ヒツジバエ科のハエは世界中に28属151種が存在すると言われています。
基本的にはウマバエは馬の内臓に寄生するハエなのですが、ヒトや犬など他の動物に寄生するヒツジバエ科の他のハエもウマバエと呼ぶことが多いです。
ウマバエの幼虫は主に哺乳類に寄生し、体内の一部を食べてハエ幼虫症を引き起こします。
そして、ヒトに寄生する”ヒトヒフバエ”という種のウマバエが存在します。
特徴
成虫の体長は種によって異なりますが、およそ12~17mmで、ハエ類の中では比較的大型の種が多いです。
体色は黄褐色や赤褐色で、それぞれ黄色や赤色の難毛に覆われており、一見するとハナアブやハチに似ています。
ウマバエの鱗弁は小さく,口器は退化しています。
また、複眼が若干小さく、触角が短いという特徴があります。
生息地
主な生息地は中央アメリカや南アメリカですが、種によってはアフリカや東南アジアなどにも生息しています。
一般的に熱帯を好み、ヒトに寄生するヒトヒフバエは中南米のメキシコやブラジル、ペルー、チリ、アルゼンチンなどに生息しており、日本には生息していないと言われています。
どのように動物に寄生する?
さて、それではウマバエはどのように動物に寄生するのでしょうか。
ヒツジバエ科のハエは、直接宿主に卵を産みつける種もいればイエバエなど他の生物を仲介して卵を産みつける種もいます。
馬への寄生方法
本来の馬に寄生するウマバエは、馬の前肢前側の毛に直接卵を産みつけます。
そして馬が毛づくろいをする際に舐めて卵に唾液が付くことで孵化し、幼虫は馬の口から体内に侵入します。
侵入した幼虫はまず歯茎に寄生し、成長とともに胃、直腸へと寄生場所を移していきます。
最終的には糞とともに排出され、地中にもぐって蛹になりやがて成虫へと羽化します。
宿主となる馬は胃や直腸が炎症を起こすことで潰瘍ができて、ひどい場合には胃が破裂して死んでしまうこともあるようです。
人間への寄生方法
一方、ヒトに寄生するヒトヒフバエは直接宿主に卵を産みつけず、メスの蚊やサシバエ、ダニなど、ヒトを吸血する昆虫のお腹に体をこすりつけて卵を産みつけます。
そして卵を産みつけられた蚊やダニがヒトに付着した際、ヒトの体温によって卵は孵化し、蚊やダニが吸血して開けた皮膚の穴から体内に侵入するのです。
侵入したヒトヒフバエの幼虫は体内で2度ほど脱皮をしながら成長し、やがて自身が侵入した穴から体外に出て蛹となり成虫へと羽化します。
人間が寄生された時の症状と治療法
もしヒトがヒトヒフバエに寄生されてしまったらどのような症状が起こるのでしょうか。
ヒトヒフバエに寄生されると、ハエ幼虫症を引き起こします。
体内で肉を食べてしまうため、馬の場合と同じく寄生部位が炎症を起こしてしまうのです。
症状としては痛みやかゆみ、皮膚の腫れ、発熱、倦怠感などです。
治療としては、とにかく幼虫を摘出することになります。
もしも、寄生に気づいても、幼虫の体表にはトゲがあるため自分で引き抜いてはいけません。
途中で幼虫がちぎれてしまったら感染症などを起こす可能性があるのです。
また、幼虫の体液にはアナフィラキシーショックを引き起こす物質が含まれているようです。
幼虫を取り出すには、皮膚科や外科など、医療機関で切開して摘出してもらうことをお勧めします。
幼虫は開いた穴から呼吸をしているため、軟膏などを穴にたっぷり塗って塞いでしまうと、呼吸ができなくなって這い出てくるようです。
もし医療機関での切開が嫌だという方がいれば、一度試してみても良いかもしれません。
【閲覧注意】ヒトヒフバエの幼虫を取り出している動画がこちら↓
ウマバエは日本にもいる?
日本にはウマバエ、アカウマバエ、ムネアカウマバエ、アトアカウマバエ、ウシバエ、ヒツジバエなどが生息しています。
しかし、人間にも寄生するヒトヒフバエは日本には生息していません。
ヒトヒフバエは日本には生息していないため基本的に日本にいる分には被害にあうことはありませんが、中南米に旅行に行った際に寄生され、帰国してから気づくという例はあります。
日本人の被害報告数は2007年までに34件と件数としては少ないですが、年々旅行者の増加とともに寄生される日本人も増えているようです。
体内で幼虫を育てた昆虫学者
通常であれば寄生されたらすぐにでも取り出したいところですが、ある昆虫学者はあえて体内で幼虫を育てたそうです。
その方は西田賢司さんというコスタリカ大学の研究者で、コスタリカの国立公園にて左手首とお腹を虫に刺されヒトヒフバエに寄生されたとのことです。
当時、コスタリカ大学にはヒトヒフバエの標本がなかったために自身の体で育てることを決意したようで、その詳細については西田さんの著書『わっ!ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』で紹介されているようです。
気になる方は一度本を手に取ってみてはいかがでしょうか。
寄生されないための予防法は?
とにもかくにも、ウマバエに寄生されないためには、
・蚊やダニに刺されないように長袖長ズボン、靴下の着用や虫よけスプレーをかける
といった対策をとるしかありません。
吸血する虫に気づいた時点でその場を離れることも大切です。
ウマバエの生息地に行く場合は、寄生される可能性があることを決して忘れてはいけません。
ペットにも注意!
ヒトヒフバエは、私たちヒトだけでなく犬や猫といったペットとなる動物にも寄生します。
ペットなどに関しても、刺されないように細心の注意を払う必要があるでしょう。
とはいえ、動物の場合予防には限界があります。
ウマバエに寄生されたら食欲低下、血便、下痢といった症状があらわれますので、そういったサインを見逃さず気になったらすぐに動物病院に連れて行きましょう。
まとめ
ウマバエとは一般的に、動物に寄生した幼虫が体の肉を食べる寄生バエの総称のことで、ヒトに寄生するのはヒトヒフバエという種になります。
ヒトが寄生されると幼虫が体内の肉を食べてしまうため、痛みやかゆみ、皮膚の腫れといった症状が現れます。
幸い、ヒトヒフバエは日本には生息していないため日本にいて被害にあうことはありませんが、中南米に旅行に行った際に寄生される可能性はあります。
ヒトやその他動物に寄生するハエなんて普段は想像もできない話ですが、世界にはさまざまな危険な虫がいるということを頭に入れておかなければいけませんね。