この地球上には毒性を持った多くの動植物が存在しています。
私たち人間はその毒によって命を落とし、また時には毒を利用して生きてきました。
そんな毒のひとつに狩猟の時に利用した「矢毒」があります。
そして「矢毒と言えばカエル」というほどに有名なのが、ヤドクカエル科の毒です。
中でも「モウドクフキヤガエル」はその名の通り、強烈な毒性を持つことで恐れられているカエルなのです。
今回は、モウドクフキヤガエルの生態や毒性についてご紹介させていただきます。
目次
猛毒界のエース!モウドクフキヤガエルの生態
出典:flickr
モウドクフキヤガエルは、ヤドクガエル科フキヤガエル属に属するカエルです。
猛毒を持つ生き物は数多くいますが、そんな中でもこの「モウドクフキヤガエル」は、猛毒界のエースとも言える存在です。
人間はもちろんのこと、大型動物でも殺すことができます。
ヤドクガエル科は、9属200種類以上が存在していますが、実はそのすべてのカエルが毒持ちというわけはありません。
中には、ほとんど毒が無いカエルもいるのです。
ヤドクガエル科で人が死んでしまうほどの毒を有する種類は、ほぼ3種。
「ココエフキヤガエル(ココイヤドクガエル)」、「アシグロフキヤガエル」、そして「モウドクフキヤガエル」です。
ココエフキヤガエル 出典:wikimedia アシグロフキヤガエル 出典:wikimedia
もちろん毒に触れた際に、激しい炎症を起こしたりするものは他にもたくさんいますが、そのほとんどが。弱毒種、無毒種なのです。
ヤドクガエル科は、北アメリカ大陸南部から南アメリカ大陸の密林に生息しています。
そしてモウドクフキヤガエルは、コロンビアの太平洋岸に広がる熱帯雨林のごく一部に生息しているとされています。
コロンビアの先住民エンベラ族が何世紀もの間、その強力な毒を吹き矢の先に塗って狩りに利用していたことがこの名の由来になっています。
猛毒を持つため恐れられながらも、私たち人間との付き合いは以外に長いんですね。
肉食性であり、アリ、ハエ、クモなどを食べています。
モウドクフキヤガエルの生態としての特徴は、卵と幼生(オタマジャクシ)の世話を行うことです。
親ガエルは卵が乾燥しないように水分を補給したり、幼生が生まれると自らの背中に乗せて別の水場へと運搬するなど、子育てするカエルなんです。
カラフルな色は警告色
体長は3~6cmほどで、体色は生息地によって黄色やオレンジ、ミント色をしており変異がみられます。
モウドクフキヤガエルを含めヤドクガエルの多くが、カラフルできれいな体色をしています。
これは「警告色」と呼ばれるもので、護身術の一種です。
わざと目立つ色をして、自身の猛毒が危険であることをアピールしているんです。
モウドクフキヤガエルは小さな生き物です。
敵に襲われた場合、その猛毒で敵を殺せたとしても、自分も致命傷を負ったり死んでしまう確率も高いのです。
ですから「私は凄い猛毒の持ち主ですから襲わないように!」と事前に知らせているんです。
自然界ならではの「派手な色=毒がある」という、暗黙の了解ですね。
しかしモウドクフキヤガエルにも、天敵がいないわけではありません。
それはノハラツヤヘビ属のヘビです。
このヘビにはモウドクフキヤガエルの持つ毒に耐性があるようで、モウドクフキヤガエルの唯一の天敵とされているのです。
触ってもアウト!?猛毒バトラコトキシン
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モウドクフキヤガエルの毒性はアルカロイド系の神経毒で、猛毒のバトラコトキシンなど、数種類の毒成分が含まれています。
とりわけバトラコトキシンが多く含まれているため、全生物最強クラスの猛毒と恐れられているのです。
バトラコトキシンはわずか0.01mgで人を死亡させるほど強力な毒で、1匹で成人10人分もの致死量の毒を持っているとされています。
この神経毒が生物の体内に入ると、筋肉や神経の麻痺、呼吸困難を引き起こし、最悪の場合死に至ります。
モウドクフキヤガエルが恐ろしいのは、皮膚そのものに強力な毒性があることです。
つまり猛毒が皮膚から垂れ流し状態、常に毒を体にまとっているのです。
毒を飛ばしてきたり、刺したり、咬みついたりはしませんが、触れるだけで危険ではあります。
しかも猛毒ですから、触れた箇所を洗い流せば何とかなる、なんて次元の話ではありません。
触れただけで絶命する可能性があるほどですから、本当に最強の猛毒生物なんですね。
毒は食べ物から貯蓄する?
しかしこの猛毒は、自己生成するものではないようです。
つまり、食物から毒物を摂取して貯蓄しているのではないか、とされているのです。
モウドクフキヤガエルは、ハエやコオロギ、アリ、シロアリ、甲虫などをエサにしています。
強力な毒が体内に保有される仕組みはまだ詳しくは解明されてはいませんが、このエサである昆虫が媒介した植物の毒に由来しているのではないかと考えられています。
したがって、人工飼育下で繁殖し、本来の生息地に住む昆虫を食べずに育った個体は毒を持ちません。
フグ同様に自ら毒を作っているわけではないんですね。
ペットとしても人気者、絶滅の危惧も!?
このようにモウドクフキヤガエルは有毒種ではありますが、飼育下ではその毒が無くなるとされていることから、ペットとして飼育されることもあり日本にも輸入されています。
もちろん野生個体の流通はありませんが、繁殖個体のみが少数流通しています。
飼育は世界中で行われており、繁殖方法も十分に確立されているようです。
比較的飼育し易い種で、ペットとしての人気も高いそうですが、念のため素手で直接触れることは避けた方が賢明ですね。
非常に美しいモウドクフキヤガエルですが、現在自然化において絶滅が危惧されています。
熱帯雨林の乱開発による環境破壊が進んだために、生息場所が減り個体数が減少しているのです。
モウドクフキヤガエルの猛毒は、ヒトにとって危険な事ばかりだというわけではありません。
近年医療業界では、モウドクフキヤガエルの毒を医薬品に利用する研究が行われており、大きな期待がされています。
人間はその毒を長きに渡って利用し、生活に役立て生きる力としてきました。
そんなモウドクフキヤガエルが絶滅してしまうことが決して無いよう、今度は私たち人間が彼らの力にならなければなりませんね。
まとめ
モウドクフキヤガエルは、コロンビアの熱帯雨林に生息しているカエルです。
黄色やオレンジやミント色といったカラフルな体色が特徴的な美しいカエルですが、その表皮からは猛毒が分泌されています。
その毒性は非常に強力な神経毒で、触れるだけでも危険な猛毒です。
しかし、モウドクフキヤガエルの毒は餌由来のため、観賞用に飼育された個体は毒を持ちません。
その美しさから、ペットとしても人気がありますので、興味のある方は是非一度調べてみて下さい。
ちなみに、お値段は2万円ほどだそうです。