“弾丸アリ(Bullet Ants)”そう呼ばれているアリが南米に存在します。
それはパラポネラ。
なぜ弾丸アリと呼ばれるようになったかと言うと、このアリの毒針に刺されると銃で撃たれたかのような激痛が走るためです。
パラポネラは漫画『テラフォーマーズ』にも登場するのでご存知の方も多いかもしれません。
パラポネラとは一体どのようなアリなのか?
今回は、パラポネラ(弾丸アリ)の生態や天敵、毒性と刺された時の症状について詳しく見ていきたいと思います。
パラポネラとは?
パラポネラは、アリ科サシハリアリ属に属するハリアリ類の一種で、和名で“サシハリアリ”と言います。
別名“弾丸アリ”と呼ばれますが、刺されると痛みが24時間続くことから現地では“24時間のアリ”とも呼ばれているそうです。
パラポネラは体長2.5~3cmの赤黒色のアリで、非常に強靭なアゴを持っています。
日本で日常的に見かけるクロオオアリは体長1cm前後であることを考えると、パラポネラは非常に大きなアリと言ってよいでしょう。
多くのアリでは女王アリは働きアリよりも体長が大きいですが、このパラポネラの場合は働きアリのほうが女王アリよりもやや大きいという特徴があります。
生息地は、南米のニカラグアやパラグアイにある湿潤な低地多雨林です。
パラポネラの巣は木の根元や木の中に作られ、巣の中には数百から数千匹のアリが潜んでいます。
アリとしては珍しく単独行動をとり、巣に近づいた動物を追い払うために金切り声をあげながら木から落ちてくることがあります。
もちろん人間相手でも同じで、何も知らずに近づいていきなり金切り声とともに落ちてきたら非常にびっくりしますね。
パラポネラの食性
パラポネラの食性は肉食で、働きアリたちは巣のある木に登って主に小型の昆虫などを捕食します。
他にも甘露を重要な餌としており、表面張力を利用してアゴの間に挟んで巣に持ち帰ります。
持ち帰った昆虫や甘露は幼虫に与えられ、重要な栄養源となっています。
昆虫を主食とするハリアリ類は絶食に非常に弱いです。
もし餌が足りないと、自分たちの幼虫やさなぎさえも食べてしまうことがあるため、餌を絶やすことができません。
死んだ餌は保存することはできませんが、毒針で麻痺させた餌は数日間巣の中で貯蔵することができます。
動けないだけでまだ生きているためです。
パラポネラの毒針は、餌を長期間保存するためにも役立っているわけですね。
パラポネラの毒性と刺された時の症状
さて、それではパラポネラの危険性についてご説明します。
パラポネラの毒性はポネラトキシンというペプチド系の神経毒で、冒頭で述べたように、刺されると銃で撃たれたかのような激痛が走ります。
痛みは全身に広がり、患部は熱とともに腫れ、痛みは長時間続きます。
相手はアリですが、まるでスズメバチに刺されたかのような痛みです。
パラポネラは噛む力も非常に強く痛いため、現地ではサソリよりも危険であると言われています。
ただ、実際はパラポネラに刺された時の症状は人によってさまざまで、リンパ腺が腫れるほど痛んだという人もいれば、特に腫れることなく1~3時間程度で痛みが引いたという人もいます。
人によっては大したことなかったと思うかもしれませんが、刺されないに越したことはないので、もしパラポネラの生息している場所に行く機会がある場合は、不用意に近づかないように注意しましょう。
パラポネラを使った儀式
このように“24時間のアリ”などと恐れられているパラポネラではありますが、現地の先住民族であるフーベイ族では、パラポネラを青年が大人になるための通過儀礼に用いています。
その通過儀礼とは
・ヤシの葉を編みこんで作った手袋にパラポネラを数百匹入れて、その手袋を両手に10分ほど装着し続ける
といったものです。
当然アリは手を刺し続け激痛が走りますが、ひたすら我慢です。
グローブをはずしたあとも激痛は続き腫れあがり、数日間は痛みやしびれなどに苦しむ場合があります。
過酷ではありますが、この儀礼を数カ月から数年かけて計20回行うことでようやく大人として認められるのです。
回数を重ねるごとに恐怖心は増すかと思いますが、この民族の青年たちは大人になるべく果敢に挑戦しているようです。
パラポネラの天敵
パラポネラは単独で毒針をもって獲物を襲う恐ろしいハンターではありますが、彼らにも天敵は存在します。
それは体長2mm程度のノミバエ科のハエです。
ノミバエの幼虫はパラポネラの体に寄生して体内を食べ尽くしてしまうのです。
パラポネラに卵を産みつけるべく、ノミバエは執拗に周りを飛び回りますが、健常な個体であればノミバエに飛びつかれても暴れて振り払うことができます。
しかし、怪我などで弱っている個体は別です。
ノミバエを振り払う元気のない個体には複数のノミバエが集まり、一瞬のうちに卵を産みつけられてしまいます。
卵を産みつけられたら最後、体内を食べられ、やがて孵化したノミバエの成虫が出てくるのです。
ちなみに、パラポネラは逆に軍隊アリが苦手とする種であると言われることがありますが、実際はそんなことはなく、パラポネラが軍隊アリに襲われる場合もあるようです。
まとめ
パラポネラとは、ニカラグアやパラグアイに生息するアリです。
強靭なアゴと毒針を持ち、刺されると銃で撃たれたかのような非常に激しい痛みに襲われるため弾丸アリとも呼ばれています。
パラポネラは幸い日本には生息していません。
南米の熱帯雨林地帯に行かない限り出会うことはまずないでしょう。
そういう意味では安心ですが、毒を持つ小さな生き物は当然ながら日本にも存在します。
スズメバチやムカデなども恐いですし、セアカゴケグモなどの毒グモも生息しています。
毒ではなくウイルス感染ですが、近年は蚊やマダニによる被害も問題となっています。
パラポネラの存在を知ることで、身近に存在する危険な生き物について意識していただければ幸いです。