“キロネックス”、ギリシア語で殺人者の手という意味ですが、オーストラリアにそう呼ばれているクラゲがいます。
そのクラゲの名前はキロネックス・フレッケリ。
属名でキロネックスと呼ばれることが多いです。
オーストラリアにはイルカンジクラゲという強毒を持つクラゲも生息しているのですが、キロネックスはそれ以上に恐ろしく、数分で人を死に至らしめるほどの毒を持っているのです。
今回は、キロネックス・フレッケリ(オーストラリアウンバチクラゲ)の生態や毒性、天敵について取り上げてみたいと思います。
キロネックスの生態
キロネックスは、熱帯性の立方クラゲ類ネッタイアンドンクラゲ科に属しており、正確にはキロネックス・フレッケリ(Chironex Fleckeri)と言います。
フレッケリとはこのクラゲの発見者であるHugo Flecker氏の名前からきているようです。
ちなみに和名ではオーストラリアウンバチクラゲ、英名では シーワスプ (海のスズメ蜂)と呼ばれています。
キロネックスは青色透明のクラゲで、立方クラゲとしては大型の部類であり傘の直径は40~50㎝ほどの大きさです。
その傘の四隅からはそれぞれ15本、全部で60本の触手が伸びているのですが、触手の長さは最長4.5mと言われています。
生息地はオーストラリア北部やインド洋南部、西大西洋の沿岸部ですが、最初に発見されたのはオーストラリアのクイーンズランド州です。
このキロネックスの近縁種には、日本の沖縄近海に生息するハブクラゲがいます。
キロネックスの大きな特徴としては、優れた遊泳力と目が発達していることが挙げられます。
キロネックスは海中を漂うのではなく、自ら泳ぐことができそのスピードは秒速1.5mとクラゲとしてはとても速いです。
また、傘の4辺にそれぞれ6個、合計24個の目があります。
この目にはレンズや虹彩、角膜、網膜が備わっており、この目によって積極的に獲物である小魚類を探しているのです。
ただ、クラゲには脳がないので、目で集めた情報をどのように処理しているのかは不明とのことです。
キロネックスの触手には1本あたり約5000個の猛毒を持つ刺胞があり、この触手は獲物に直接触れなくても獲物から出る化学物質を感知することができるようです。
これは、キロネックスが獲物によって触手が傷つけられるのを防ぐためと言われています。
いずれにしても、その触手に触れると、その毒の強さで一瞬にして獲物は気絶するか死にます。
キロネックスは、地球上で一番毒性が強いクラゲだと言われています。
基本的に人間を襲うことはありませんが、誤って人間が触手に触れた場合も死の危険性が高いのです。
キロネックスの危険性
それでは、キロネックスの危険性についてご説明します。
キロネックスの毒には神経毒、溶血毒、皮膚壊死毒などさまざまな成分が含まれており、いまだにその科学的な性状は分かっていません。
ただ、この毒は世界的に見ても極めて致死性が高いと言われており、刺されると心臓や神経系、皮膚細胞などほぼ全身に症状があらわれます。
キロネックスに刺された時の症状としては、まず、耐えがたいほどの激しい痛みが襲ってきます。
そして皮膚の壊死、視力の低下、呼吸困難、心停止といった症状があらわれます。
そして、刺されてから3分~10分ほど、子どもであればおよそ1分で死に至ります。
激しい痛みによる心臓マヒ、ショックによる溺死という例もあります。
刺された箇所が少なければ助かることもありますが、キロネックスの触手は長いため体に絡まってしまうことが多いです。
広範囲に刺されてしまうとまず助からないと考えてよいでしょう。
運よく死を免れたとしても激痛は数週間に及び、ミミズ腫れのような傷跡は長く残ってしまいます。
キロネックスの毒は、一匹あたり成人60人分ほどの致死量があると考えられています。
一人あたり0.00002gで死に至るほどの毒性、とてつもなく恐ろしいクラゲですね。
幸い、キロネックスに対しての血清はあり、これを投与すれば重体患者でも5秒で解毒できたという臨床結果があるようです。
しかし、なにせ刺されて数分で死んでしまうので、ほとんどの場合、血清の投与が間に合わずに亡くなってしまいます。
1954年からの統計では、5567人がキロネックスにより死亡しています。
クラゲ刺傷による被害者数としては驚くべき数字です。
現地では少しでも被害を減らそうと苦慮し、海水浴場ではキロネックスへの注意を促す看板を設置したり、防護ネットや金網を設置し海水浴場への侵入を防ぐ対策をとっています。
しかし、キロネックスは幼体の時点で金網をすり抜けてしまうため、完全に防ぐことはできないようです。
また、キロネックスの活動時間帯は昼間であるため、海水浴客が被害にあうケースが多いのです。
刺されないためには
それでは、キロネックスに刺されないためにはどうすればよいのでしょうか。
調べたところ、キロネックスは肌が薄い布などで覆われていれば刺胞の毒を発射しないそうです。
そのため、長袖のラッシュガードやウェットスーツなどを着用して肌の露出を防げば、ある程度被害を防ぐことができるでしょう。
現地の人は簡単に身を守る方法として、男女問わずパンストを着用しているようです。
観光客の場合少しためらってしまうかもしれませんが、刺されたら死んでしまうことを考えれば見た目など気にしていられないですよね。
オーストラリアの海水浴場には、クラゲに刺された時のために酢が設置してあります。 キロネックスの場合、毒性が強いので大きな効果は期待できないかもしれませんが、応急処置として酢をかけたほうが良いでしょう。 前述したように、刺された箇所か少なければ命は助かる可能性があります。 もし刺された場合は、ライフガードに声をかけるなどして早急に対処し、できるだけ急いで病院へ向かうようにしてください。 大型で猛毒を持つキロネックス。 こんなに恐ろしいキロネックスも、ウミガメにはかなわないようです。 ウミガメにはクラゲの毒に対する耐性があり、キロネックスの毒も全く効かずむしろ捕食されてしまうのです。 一説によると、キロネックスに目があり遊泳力も備わっているのは、ウミガメから逃れるためではないかと言われています。 どんな生物にも天敵というのは存在するものなのですね。 キロネックス対策のためにウミガメの存在も期待されましたが、残念ながらウミガメの個体数が少ないためにキロネックスの数を減らすまでには至らないようです。 キロネックスの被害を減らす有効な手立てはなかなか見つからないのですね。 キロネックス(和名:オーストラリアウンバチクラゲ)は、オーストラリアやインド洋に生息する猛毒クラゲです。 その毒の強さは、刺されて最短3分で死亡するほど恐ろしいものです。 オーストラリアの海に入る機会があれば、長袖のラッシュガードやウェットスーツなどを着用して、できるだけ肌の露出を減らしましょう。 キロネックスは熱帯性のクラゲのため、今のところ日本には生息していません。 オーストラリアに旅行に行かない限り、キロネックスに関わることはありません。 しかし、温暖化により海水温が上昇していることを考えると、今後日本にやってくる可能性もあります。 海に入る以上、これから先どこで出会うか分かりません。 自分には関係のないことなどとは思わず、キロネックスの危険性についてある程度頭に入れておいたほうが良いかもしれませんね。もし刺された時は?
キロネックスの天敵
まとめ