鮮魚店のみならず、スーパーなどでも比較的目にする機会の多い魚はたくさんありますが、アジもそんな魚のひとつです。
干物にフライ、お刺身や塩焼きと、私たちの舌を喜ばせてくれる身近な魚でもありますよね。
しかしこのアジ、実は様々な種類がいることご存知ですか?
一般的に私たちが大衆魚として認識しているのは「真アジ」です。
その他にもメッキと呼ばれる「ギンガメアジ」があります。
今回は、ギンガメアジ(メッキ)の生態やシガテラ毒の危険性についてご紹介させていただきます。
生息地と生態
ギンガメアジは、スズキ目アジ科ギンガメアジ属の海水魚です。
生息地は本州中部以南、インド洋、太平洋、東太平洋の熱帯、亜熱帯域に広く分布しています。
また、日本では温暖な南西諸島沿岸での個体数が多いとされていることからも、比較的暖かい海の魚と言えますね。
成魚の全長は約80~90cm、中には1mを越す大きな固体も見られます。
長楕円形をしていますが、成魚ではやや細長くなります。
ほかのアジと比べると体高があり、頭部から吻(ふん)にかけてゆるやかなカーブを描いています。
体色は背部が暗青緑色で、体側から腹は銀白色、背びれ、尾びれ、背中の部分は黒っぽい色をしています。
幼魚期には金色で、6本の幅広な暗色横帯がありますが、これは成長とともに黄色みと横帯が消えていきます。
眼が大きく、口のすぐ上にあり眼瞼(がんけん)が発達しています。
産卵期は4~7月で、海中をバラバラになって漂う「分離浮遊卵」で産卵します。
孵化した稚魚はしばらくの浮遊生活を経て、全長3cm程になると内湾や汽水域で成長しますが、なかには川をのぼる固体もいます。
成長と共に沿岸の岩礁域などに移動し、内湾の沖合い200mまでの珊瑚域や岩礁緑、礁斜面などに生息しています。
昼間は群れて留まっていることが多いギンガメアジですが、夜になると活発にエサを捕まえます。
肉食でイワシなどの魚類やエビなどの甲殻類などを捕食します。
また、ギンガメアジは"メッキ"とも呼ばれます。
しかし、メッキとは正確に言うと、ギンガメアジ、ロウニンアジ、カスミアジなど、ヒラアジ類の幼魚の総称です。
ギンガメアジの見分け方
前述したように、一口にメッキと言っても、ギンガメアジ以外の多くの種類も含まれます。
ギンガメアジ、ロウニンアジ、カスミアジのほか、オニヒラアジ、イトヒキアジ、テンジクアジ、ウマヅラアジなど、まだまだたくさんの種類がいますが、そんな中でもメッキと言えばこれ!という魚がギンガメアジなんです。
でもこれだけ多くのメッキたちの中で、ギンガメアジを見分けるのは大変ですよね?
ギンガメアジは、鰓蓋(えらぶた)上部にある小さな黒い斑点が特徴的で、他のアジとの違いを明確にしてくれます。
人間で言えばまるで黒子のように見える小さな黒い点は、ギンガメアジを識別する大きな目印でもあるのです。
銀紙鯵・銀河目鯵、名前の由来
アジらしく銀色に輝くその魚体から「銀紙鯵」と呼ばれていたのが、名前の由来と言われています。
他にも漢字で「銀河目鯵」と表記されています。
「銀紙」よりは「銀河目」の方が、幾分ロマンチックで美味しそうな気もしますね。
ギンガメアジのトルネード
「トルネード」と言われる、渦状の群れを形成するギンガメアジは、ダイバーたちからも絶大な人気を誇っています。
そのトルネードの数は、ときに数千匹の大群とも言われ、これを目的に海に潜るダイバーたちも多くいるのです。
ギンガメアジがトルネードを形成する行動理由については、敵に襲われないようにするためや、効率よく呼吸するためなど言われますが、詳しくは解明されてはいません。
また「出会いの場説」つまりギンガメアジたちの、合コンのようなもので、カップルが成立すると抜けていくという話もあります。
トルネードの最中に、何匹かずつ海底に体を擦る様な動きあることから「寄生虫を取るため説」もあるようです。
まだまだ解明されていないギンガメアジのトルネードですが、見るものを幸せな気分にさせてくれることだけは間違いないようですね。
実は毒持ち?シガテラ毒とは
ギンガメアジはルアー釣りをはじめ、サビキ釣りでも人気の釣り魚です。
定置網でも漁獲され、食用としても多く利用されていますが、実はこのギンガメアジ、毒を持つ魚としても知られているのです。
ギンガメアジの毒は「シガテラ毒」で、南洋の海に発生する有毒性のプランクトンによって汚染された魚介類を食べると食中毒を起こします。
しかし毒を持つとされている多くの魚介類と同じく、もともとギンガメアジ自身が毒を持っているわけではありません。
フグや貝などの魚介類が持つ毒素は、その魚介類自身が体内で毒素を生成しているのではなく、毒性を持つプランクトンを食べる食物連鎖によって「生物濃縮」が起きるために、毒性を持ってしまうとされています。
そのため、ギンガメアジが必ずシガテラ毒を持っているとは限りませんが、大型の個体ほど有毒の可能性が高くなるのです。
このシガテラ毒は、熱帯地域に生息する魚に多くみられる南方特有の中毒で、その恐れのある魚の種の数は数百種類と言われています。
ギンガメアジの他には、
・バラフエダイ、オニカマス、ウツボ、バラハタ、マダラハタ、ブリ、カンパチ、カマス、ヒラマサ、イシガキダイ
などがあります。
この中では、オニカマスのみが食用禁止となっています。
しかし、ギンガメアジと同じように、私たちがよく口にする魚も多くいるのです。
シガテラ中毒の症状と治療法
シガテラ毒による中毒症状は、食べた後約30分~数時間ほどで現れますが、普通の食中毒と見分けることはとても困難です。
腹痛や下痢、嘔吐のほか、重症化すると麻痺や痙攣、呼吸困難などショック状態に陥ることもあります。
また、シガテラ毒の特徴としては、ドライアイスセンセーションと呼ばれる温度感覚異常があります。
これは冷たい物を触った際に、ドライアイスを触ったような、もしくは電気ショックを受けたような感覚になる症状です。
またはコールドセンセーショナルリバーサルと言う、熱いものを冷たく感じるなどの症状もあります。
しかしシガテラ中毒に対する効果的な治療法は、現在のところはまだありません。
そのため、症状を軽減するための対症療法が行われています。
シガテラ中毒は重症化する場合もあるので、早めに医療機関で治療を受けるようにしましょう。
まとめ
ギンガメアジは、比較的暖かい海に生息する、大きいと1mもある大型のアジです。
餌由来のシガテラ毒を持つ可能性があり、大型の個体ほどその危険性は高まります。
先ほど挙げたようにギンガメアジのほかにもシガテラ毒を持つ魚は多くいます。
しかもそのどれもが私たちが日常よく食べている美味しい魚です。
でも、たいていの人がシガテラ中毒を発症していませんよね。
それはこれらの魚が全部シガテラ毒を保有しているわけではないからです。
毒素の濃度も、同じ種類の魚であっても地域によっては無毒であったり、または毒素の濃度も違ったりと固体差があります。
毒の有無については目視で確認できませんし、加熱しても無毒化されないので、非常に厄介なものでもありますが、日本国内で流通している魚であれば、シガテラ毒の心配はほぼありません。
ギンガメアジの身は良質で、刺身をはじめ煮付けや塩焼き、バター焼きやから揚げなどのどんな調理をしても美味しく楽しめることがでる魚なのです。