動物園やサファリパークなどで人気のホワイトタイガー。
個体数も少なく非常に珍しい種であるため、一度は見てみたいという方も多いと思います。
トラと言えば通常は黒色縞模様の入った黄褐色の体を連想しますが、白いトラなんて一体どういった理由で誕生するのでしょう。
今回は、このホワイトタイガーの生態や人間が襲われた事件などについてみていきたいと思います。
ホワイトタイガーとは
ホワイトタイガーは、食肉目ネコ科ヒョウ属に属するベンガルトラの白変種で、正式には“ベンガルトラ白変種”という名が付けられています。
ホワイトタイガーというのはただの呼称なのです。
インドを始めさまざまな国で神聖な動物としてあがめられており、中国でも伝説上の神獣・四神の一つである白虎として有名です。
体長はメスで140~230cm、オスで250~300cm程度、体重はメスで90~180kg、オスで180~250kg程度です。
ベンガルトラはトラの中でも大型の種であり、基本的にメスよりもオスのほうが大きいです。
通常のベンガルトラの体色は、腹部は白色であるものの黄褐色やオレンジ色っぽい茶色をしていますが、ホワイトタイガーは全身白色もしくはクリーム色です。
黒色縞模様はあるものの通常よりも色が薄く、中には茶色だったり全く縞模様が見えない個体も存在します。
他にも、目が青い、肉球が肌色といった特徴もあります。
アルビノではない?白変種が誕生する理由
それでは、なぜベンガルトラには白変種という個体が誕生するのでしょうか。
白い個体というと、恐らくアルビノを思い出す方も多いでしょう。
アルビノというのは、先天的にメラニンが欠乏しているという遺伝子疾患を持つ個体のことで、ネズミやウーパールーパーなどに見られます。
しかし、ホワイトタイガーの場合はアルビノではなく、あくまでも白変種なのです。
遺伝子的には全く問題がないが、あえて白くなるということです。
実際に、アルビノの特徴である赤く透けて見える目を持つ個体は存在せず、全身白色といっても黒色模様は残っています。
なぜ白変種が存在するかという理由は、はるか昔の氷河期時代にまでさかのぼります。
雪や氷に覆われた氷河期においては、白色個体のほうが保護色となり生存に有利でした。
氷河期を生き抜いていく間に、ベンガルトラの祖先に白い毛を作るという遺伝子が組み込まれていき、その遺伝子情報が今も残っているため突然変異としてホワイトタイガーが誕生するのです。
氷河期が終わってからは、白色個体はむしろ目立ってしまい生存に不利になりました。
草原では通常のベンガルトラの体色のほうが保護色となり有利です。
ホワイトタイガーは、今や劣性遺伝子を持つ個体として淘汰されてしまう存在なのです。
ホワイトタイガー(ベンガルトラ)の生態
生まれても生存に不利なため淘汰されてしまうホワイトタイガー。
当然、個体数も少なく絶滅危惧種に指定され、野生下ではほぼ見られなくなりました。
ベンガルトラの生息地はインドやネパール、バングラディシュ、ブータンなどで、ホワイトタイガーももし野生下にいるとしたら同様です。
ベンガルトラは、森林地帯や草原、湿地帯に生息し、通常は単独で生活しています。
食性は肉食で、シカやイノシシといった大型哺乳類のほか、魚類、鳥類、爬虫類などさまざまな動物を食します。
民家に近づき家畜を襲うこともあります。
夜行性であるため、昼間は岩穴や草むらの中で休んでいることが多いです。
大型種であるため木登りはできませんが、泳ぎは得意で大きな川でも簡単に泳いで渡ってしまうようです。
近年は、森林破壊などにより生息域がどんどん狭められてしまいました。
密猟も後を絶たず、ホワイトタイガーだけではなくベンガルトラ自体も絶滅危惧種に指定されるほど個体数が減少してしまっている状況です。
ベンガルトラの繁殖期は2~5月頃で、約4カ月の妊娠期間を経て2~6子を出産します。
気になる子どもの体色ですが、通常のトラ同士の交配であれば突然変異としてホワイトタイガーが生まれます。
ホワイトタイガー同士の交配であれば子もホワイトタイガーになるようです。
なお、野生下におけるホワイトタイガーの寿命は8~10年と言われています。
人間が襲われた事件
さて、ここでホワイトタイガーによって人間が襲われた事件についてご紹介します。
野生下ではほとんど見られなくなったホワイトタイガーですが、動物園やサファリパークなどでは見ることができます。
現在確認できている個体はすべて飼育下にある個体で、世界で250頭ほどと言われ、日本では30頭近くが動物園などで飼育されています。
この飼育下にある状況で、ホワイトタイガーに人間が襲われるという被害がいくつも起きているのです。
2003年、アメリカ・ラスベガスにあるエンターテイメント複合施設で、マジックショーの公演中にマジシャンがホワイトタイガーに噛みつかれるという事件が起きました。
マジシャンは舞台の外まで引きずられ、その後救出されたものの大量出血して重傷を負いました。
2007年には、中国の動物園でホワイトタイガーが展示場の2mの防御ネットを飛び越え、作業員に襲いかかって重傷を負わせました。
2014年には、インド・ニューデリーの動物園でホワイトタイガーの展示場の柵を乗り越えて入った男性が襲われて死亡しています。
2017年10月、つい最近にもインド南部の国立公園でホワイトタイガーの子ども2頭に飼育員が噛み殺される事件が起きています。
そして日本国内においては2018年10月8日、鹿児島県の平川動物公園で職員の男性(40)がホワイトタイガーに襲われて死亡するという事件が起こりました。
人間により飼い慣らされ十分に餌を与えられている状態であっても、何がきっかけで野生のスイッチが入り人間に襲いかかるか分からないのです。
飼育されているとはいえ、彼らは肉食動物ということを決して忘れてはいけません。
まとめ
ホワイトタイガーは絶滅危惧種であるということもあり、現在多くの施設でホワイトタイガーの繁殖を試みています。
しかし、前述したようにホワイトタイガーはベンガルトラの白変種であり、劣性遺伝です。
劣性遺伝なうえに個体数が少ないということで近親交配が進み、障害のある個体を生みだしてしまう危険性があります。
すでに、いたるところで内斜視の個体、上唇が短い個体など問題を抱えた個体が誕生しています。
ある保護団体は、ホワイトタイガーの繁殖は種の保存ではなく、各施設がお客を呼び込むための営利目的だと批判しています。
今までは突然変異として生まれていたホワイトタイガーは、いつの間にか人間によって意図的に作り出されていたのです。
そして、障害を持った個体は私たちの知らないところで処分されてしまっているかもしれません。
劣性遺伝子を持った個体を意図的に生み出すことはその動物にとって幸せなことなのか、私たちは冷静に、真剣に考えていかなければならない問題のようです。