ヨーロッパ南西部のイベリア半島、ちょうどスペインやポルトガルが位置するこの地域に、オオヤマネコ属の一種であるスペインオオヤマネコが生息しています。
彼らは現在、急激な個体数の減少により絶滅危惧種に指定されており、個体数を増やすためにさまざまな対策が取られています。
スペインオオヤマネコとは一体どのような動物なのか。
今回は、スペインオオヤマネコの生態、絶滅の危惧と保護対策についてご紹介させていただきます。
スペインオオヤマネコの生態
スペインオオヤマネコは、ネコ科オオヤマネコ属しており、別名”イベリアオオヤマネコ”と言います。
もともとは、同じオオヤマネコ属であるヨーロッパオオヤマネコの亜種とされていました。
体長は約80~110cm、体重約10~15kg、尾長約10~13cmと比較的中型で、基本的にオスのほうがメスよりも体格が大きいです。
尻尾は短く、四肢は長くとても凛々しい姿をしています。
体毛の色は季節によって変化し、夏は赤褐色や黄褐色ですが冬になると灰色がかります。
また、腹側の体毛は白色です。
胴体や脚、尻尾には黒色斑点が広がり、斑点の模様は個体によってさまざまです。
耳の先には黒色の飾り毛、両頬には長いふさ毛があり、目は黄金色であるのが特徴的です。
夜行性であるため、人目につくことはほとんどありません。
普段は樹洞や茂みなどに潜んで生活しています。
スペインオオヤマネコは、かつてはヨーロッパ南西部のイベリア半島全域に生息していました。
しかし、近年その生息数は激減し、現在はスペインのアンダルシア地方にあるドニャーナ国立公園とシエラ・モレナ山脈の2ヶ所と、ポルトガル南東部にしか生息していないことが確認されています。
2016年時点で確認できている生息数は404頭と非常に少ないです。
ポルトガルでは一度絶滅したため、現在ポルトガルに生息しているのは再導入された個体群です。
スペインオオヤマネコの主な生息場所は標高400~900mほどの硬葉樹が広がる低木林です。
縄張りを作って単独で生活しており、餌の9割はアナウサギです。
その他にも昆虫やネズミ、カモ、冬場にはシカなども捕らえます。
繁殖時期は主に冬から春先で、約70日間の妊娠期間を経て2~3頭の子どもを出産します。
野生下での平均寿命は約13年と言われています。
絶滅の危険性
さて、それではなぜスペインオオヤマネコはこんなにも絶滅の危険性が高くなってしまったのでしょうか。
まず第一に、森林の開発が挙げられます。
ダム開発や道路交通網の整備などによる低木林の伐採がすすみ、スペインオオヤマネコの生息地が激減してしまいました。
また、森林に道路ができたことにより生息地が分断され、道路を横切ることで交通事故も多発しました。
さらに毛皮目的の密猟が続き、スペインオオヤマネコの個体数が一気に減少してしまったのです。
スペインオオヤマネコの個体数が減少した原因には、他に主食であるアナウサギの減少もあります。
森林開発はまた、アナウサギの生息地も奪ってしまいました。
生息地が減ったことによる個体数の減少に加え、アナウサギは粘液腫症といった病気の流行により大量に死んでしまったのです。
餌の9割がアナウサギであるスペインオオヤマネコにとって、アナウサギの減少は深刻な問題です。
実際に、スペインオオヤマネコの出生数が減ってしまった地域もあるようです。
このままアナウサギが減少し続けてしまうと、生態系がますます崩れてしまう危険性があるのです。
そして、温暖化もスペインオオヤマネコに大きな影響を与えています。
近年、イベリア半島では地球温暖化が原因とされる干ばつが続き、こういった気候変動によりアナウサギの病気が拡大してしまうのではないかという心配がされています。
2013年には英科学誌ネイチャーで、スペインオオヤマネコは、たとえ世界が温室効果ガス排出量の削減目標を達成できたとしても、気候変動の影響で50年以内に絶滅するという発表をしています。
こういった多くの原因により、スペインオオヤマネコは2002年頃には生息数が52頭にまで減少してしまっています。
そこから徐々に個体数を増やしていき、2012年には156頭、2014年には327頭、そして前述したように2016年には404頭にまで回復しました。
ここまで回復するのに、スペインではさまざまな保護対策をとりました。
しかし、ここまでスペインオオヤマネコを絶滅の危機に追いやったのは他でもない人間であることを忘れてはいけません。
保護対策
現在スペインで考えられている保護対策というのは、
・主食であるウサギをスペインオオヤマネコの生息地に放す
・道路で分断された生息地を回廊などで結ぶ
・飼育下で繁殖させた個体を野生に放す
といったものです。
自然保護団体リンクス・ライフでは、約3億円の支援をもとに保護活動を行っています。
また、スペイン南部にあるドナナ国立公園では、数年前からオオヤマネコを再繁殖させる取り組みが行われているようです。
ある研究チームでは、飼育した1~4歳のオスメス両方のスペインオオヤマネコを、毎年野生に放すことで今世紀中の絶滅が回避されると考えています。
少しずつスペインオオヤマネコの生息数が増加してきているのは、こういった対策がとられてきたためでしょう。
まとめ
スペインオオヤマネコは、スぺインとポルトガルの一部に生息する中型のネコ科動物です。
近年その生息数は激減し絶滅の恐れが出ています。
スペインではさまざまな保護対策が取られ、少しずつですが個体数は回復してきています。
しかし、一度壊してしまった生態系はもう戻りません。
また、温暖化による気候変動が今後悪化しないとも限りません。
スペインオオヤマネコが絶滅危機から回避される日が訪れるのか、現時点では何とも言えません、がまだまだ遠い未来であることは間違いないでしょう。