“暗殺毛虫”、そう呼ばれる生物がいます。
それは、ベネズエラに生息するベネズエラヤママユガの幼虫です。
この幼虫は見た目が奇妙なだけでなく保有する毒性が非常に強く、人間を死に至らしめるほどの威力があるのです。
現地の人々に恐れられているベネズエラヤママユガの毒性はどれほどのものなのか?
今回は、ベネズエラヤママユガの生態や毒性について詳しくご説明したいと思います。
ベネズエラヤママユガとは
ベネズエラヤママユガとは、チョウ目ヤママユガ科に属するガで、主に中南米の熱帯雨林に生息しています。
猛毒を持つベネズエラヤママユガの幼虫の大きさは5cm前後で、全身がさまざまな長さのケバケバした刺で覆われています。
体色は周囲の環境に合わせて変えることができ、緑色や黄色、赤色、茶色とさまざまです。
一方、ベネズエラヤママユガの成虫は、翅を広げた場合の大きさが15㎝前後で翅の色は茶色と地味な色をしています。
4枚の翅を広げた際に横に黒色線が入っており、遠くから見るとまるで枯れ葉のようです。
これは、成虫は毒を持たないため、枯れ葉に擬態することで鳥などの外敵から身を守っていると言われています。
生態
前述したとおり、ベネズエラヤママユガは中南米の熱帯雨林に生息しています。
基本的にはジャングルの奥地に生息しており、人間と接触する機会はあまりありません。
ただ、近年は環境破壊などの影響で、人間が住む地域にも生息するケースが増えているようです。
食性についてですが、幼虫はコナラ、クヌギといったブナ科植物の葉を食べて育ちます。
しかし、成虫になると口が退化してしまうため、何かを食すことができません。
成虫の生存期間はおよそ1週間から2週間。
ベネズエラヤママユガの成虫は、幼虫時代に蓄えた栄養をもとに子孫を残すことに力を注ぎこみ、その短い生涯を終えるのです。
ベネズエラヤママユガの毒性
それでは、ベネズエラヤママユガの幼虫が持つ毒性についてみていきましょう。
ベネズエラヤママユガの幼虫は、マムシやハブなどと同質の抗凝血性の出血毒を保有しています。
つまり、刺されて出血すると血がなかなか止まらないのです。
傷口の出血が止まらないだけでなく、毒が体中に回ると内臓や脳内の出血も引き起こされます。
毒が体内に回る速度は遅く、じわじわと体内を侵していきます。
内臓や脳内から出血が起こると、当然ながら激痛を伴います。
そして、最悪の場合は腎臓が破壊され腎不全により死亡することもあるのです。
ベネズエラヤママユガの幼虫は環境に合わせて体色を変えられるため、いると気づかずに誤って刺されてしまうケースが多いようです。
過去にブラジルで幼虫が大発生して死者が出た例も報告されており、現地では“アサシン・キャタピラ(暗殺毛虫)”と呼ばれ恐れられています。
今までに500人以上がこの幼虫によって死亡していますが、近年は血清が作られたことにより死亡するケースは減っているようです。
被害が増えた原因
ベネズエラヤママユガはもともと人里離れたジャングルの奥地に生息していたため、昔は人間と接触する機会が少なく被害件数も少なかったと言われています。
幼虫の毒による被害が増えたのは、森林伐採などによる環境破壊が原因です。
環境破壊によってベネズエラヤママユガの生息場所が失われ、人間の住む町の周辺に生息するようになったのです。
今後も森林伐採が続けられると、ベネズエラヤママユガはより人間の身近に生息することになるでしょう。
そうなると当然幼虫に刺されてしまうケースも増加します。
いくら血清が作られたとはいえ、非常に強力な毒であるため危険であることに変わりはありません。
人間の身勝手な行動が引き起こしたこととはいえ、強毒を持つ幼虫が身近にいるというのは現地の人々にとっては非常に悩ましい問題であると言えるでしょう。
日本のヤママユガは大丈夫??
幸い、日本にはベネズエラヤママユガは生息していません。
同じヤママユガ科であるヤママユは日本各地の雑木林に生息していますが、日本に生息するヤママユの幼虫は毒を持っていません。
特徴や生態については同じヤママユガ科として同じであるものの、安全なガであるため安心してください。
ただ、翅を広げた大きさがやはり15cm前後あるため、虫嫌いの人にとっては恐ろしい生き物に変わりはないでしょうね。
因みに、ヤママユは幼虫から成虫になる過程で緑色の繭を作るのですが、この繭から「天蚕糸」という緑色の絹糸が採れます。
この「天蚕糸」は最高級の絹糸とされ、普通の絹糸の数十倍の値段で取引されるようです。
ヤママユ自体の見た目はちょっと気味が悪いですが、美しい絹糸として私たちの生活に関わっているのです。
ベネズエラヤママユガについては、強毒を持つゆえ繭から絹糸を採ろうなんていう話はないことでしょう。
とにもかくにも、ベネズエラヤママユガの幼虫には近づいてはならないのです。
まとめ
ベネズエラヤママユガとは、主に中南米の熱帯雨林に生息している蛾です。
幼虫は人が死亡するほどの猛毒を持っており、現地では暗殺毛虫と恐れられています。
本来はジャングルの奥地に生息しており、人間と接触する機会はあまりありませんでしたが、人の生活域の拡大によって接触する機会が増えたせいで被害は増えているようです。
恐ろしい毒を持つベネズエラヤママユガですが、彼らも人間の環境破壊の被害者であることは事実なんですね。