本来日本にはいるはずのない外来種。
最近ではヒアリの日本上陸が話題となりましたが、外来種のアリとしてすでに問題となっている種の中にアルゼンチンアリがいます。
日本において特定外来生物に指定され、世界および日本の侵略的外来種ワースト100にも選ばれているのがアルゼンチンアリです。
一体どのようなアリなのか?
今回は、アルゼンチンアリの生態や危険性についてご説明したいと思います。
目次
アルゼンチンアリとは
アルゼンチンアリは、ハチ目アリ科カタアリ亜科に分類されるアリで、原産地は南米です。
体長は働きアリが約2.5 mmと小型で、女王アリはその2~3倍の大きさになります。
体色は黒褐色から茶褐色で、体型は日本の在来種と比べるとほっそりしています。
複眼が若干大きく、外皮は柔らかいです。
また、触角や脚が長く、非常にすばやく動き回るという特徴があります。
食性については雑食で、果実や植物の芽や花、昆虫の死骸、人間の出した生ごみなどなんでも食べます。
特に、砂糖や花の蜜など甘味成分を好み、アブラムシやカイガラムシが分泌する甘露も好んで食するようです。
また、アルゼンチンアリは非常に攻撃性の強い種で、他種のアリの巣を見つけるとそれを襲い、中にいる幼虫も成虫もすべて餌として食べてしまいます。
そのため、アルゼンチンアリが生息する地域の在来種は著しく個体数を減らしてしまうこととなってしまうのです。
生息地と営巣場所は?すでに日本にもいる!
アルゼンチンアリの原産地は南米ですが、現在は南米のほか北米南東部、オーストラリアやニュージーランド、ハワイ、ヨーロッパなどに生息域が拡大し定着しています。
そして、日本でもすでに定着が確認されています。
初めて日本でアルゼンチンアリが確認されたのは1993年で、広島県廿日市市において採集されました。
その後、広島県内で生息域を広げただけでなく、
・東京、神奈川、静岡、愛知、岐阜、京都、大阪、兵庫、岡山、広島、山口、徳島
の1都2府9県でもその生息が確認されています。
日本に侵入した経緯、そして国内でも生息域が広がっていった経緯については、人間や物資の移動に伴うものと考えられています。
アルゼンチンアリの営巣場所は、
・建物の壁やコンクリート、ブロック塀などの隙間や割れ目、プランターの下、玄関マットの下、倒木や石の下、車のトランクやエンジンルーム
などに巣を作った例があります。
比較的人の手が加わった場所を好む傾向にあり、在来種と違って土中深くに巣を作ることはほとんどありません。
繁殖力の高さ、多女王制
アルゼンチンアリは非常に繁殖力の高い種で、一つの巣に複数の女王アリがいるという多女王制をとっています。
一匹の女王アリは1日に約60個もの卵を産み、約2カ月で成虫(働きアリ)となります。
複数の女王アリがいれば、働きアリの数はあっという間に増えていくのです。
そのため、コロニー(家族)も巨大化することが多く、100匹以上の女王アリと100万匹の働きアリからなるコロニーが発見されたことがあります。
アルゼンチンアリは女王アリを伴って分巣をする性質なのですが、他の巣のアルゼンチンアリも含めて一つのコロニーを形成します。
よって、前述したほどの巨大なコロニーが出来あがるわけです。
アルゼンチンアリの危険性
さて、それではアルゼンチンアリの危険性についてみていきたいと思います。
アルゼンチンアリが増えることによって私たち人間が受ける影響は次の3つです。
不快害虫としての被害
まずは不快害虫としての被害です。
アルゼンチンアリは家の壁の隙間などにも巣を作るため、時として家の中にも侵入します。
行列を作って侵入しては台所などを徘徊するため、住人にとって大きなストレスになります。
人間に対しても攻撃的であるため、場合によっては咬まれることもあります。
就寝中に徘徊することもあるため、人によっては恐怖心を抱くなど頭を抱える事態になってしまうのです。
しかし幸いなことに、ヒアリのように強力な毒があるわけではないので、咬まれても命に関わることは無いそうです。
農業害虫としての被害
次に、農業害虫としての被害です。
アルゼンチンアリは何でも食べるため、農作物である果実やトウモロコシ、サトウキビといった甘味の強い植物を食害します。
それだけでなく、農業害虫であるアブラムシやカイガラムシが分泌する甘露を好むため、彼らを外敵から保護する役割を担います。
その結果、アブラムシやカイガラムシによる農作物被害が深刻化している状況です。
生態系への影響
最後に、生態系への影響です。
先ほども述べたように、アルゼンチンアリは他種のアリを襲うため、在来種が絶滅に追いやられる危険性があります。
すでにアメリカやヨーロッパ、オーストラリアなどでは在来種が駆逐されてしまった地域があるようです。
在来種の個体数が激減すると、トカゲなどそれらを餌としていた動物の個体数までも減少してしまいます。
また、在来種に花粉の運搬や種子散布を依存していた植物の繁殖を妨げることにも繋がるのです。
アルゼンチンアリが本来棲むべき場所ではないところで繁殖することにより、その地域の生態系のバランスは少しずつ崩れていってしまうのです。
アルゼンチンアリの駆除対策法
では、アルゼンチンアリが身近で繁殖してしまった場合、一体どのようにすればよいのでしょうか。
残念ながら、アルゼンチンアリはその性質から、一度棲みついてしまったら駆除や根絶や難しいようです。
とはいえ、何も対策を取らないわけにはいかないでしょう。
駆除を試みるならば、殺虫剤や毒餌を使った方法があります。
殺虫剤はアリそのものに噴きつけるのではなく、巣全体に噴きつけるほうが良いようです。
しかし、それで多くのアルゼンチンアリが殺せるわけではなく、ただ忌避効果が得られるだけかもしれません。
毒餌は、アリの見つけた餌は巣まで持ち帰るという習性を利用したものです。
アリが毒餌を巣に持ち帰りグルーミングすることによって全滅させるといったものですが、アルゼンチンアリについては残念ながら全滅させるまでにはいかず、あくまでも対症療法に過ぎないのです。
アルゼンチンアリの駆除には知恵と根気が必要で、個人が行うには限界があります。
しかし、全く希望がないわけではありません。
2013年、国立環境研究所などが殺虫成分であるフィプロニルを混ぜた毒餌を用いて効率的な駆除方法を開発したと発表しました。
実験では、その駆除方法により個体数が1/5まで減少したそうです。
そして2017年、特定の地域でアルゼンチンアリを根絶させる手法を確立したと発表しました。
その発表によると、アルゼンチンアリの生息地域で毒餌を5~10m間隔で設置して定期的に交換し、巣にも直接農薬を散布したりといった駆除を行ったところ、数年かけて根絶できたとのことです。
この実験結果をもとに、近い将来多くの地域で根絶できることを願います。
まとめ
アルゼンチンアリはまだ全国的に広まっているわけではありませんが、いつ何がきっかけで他県にも侵入するか分かりません。
アルゼンチンアリの生息域拡大を防ぐためには、早期発見と早期対応が非常に重要です。
アルゼンチンアリは物資や人間に付着して移動するため、海外からの輸入品はもちろんのこと、各県への物資の運搬の際にはアルゼンチンアリの付着がないか細心の注意を払って確認する必要があります。
もし、疑わしきアリを発見した場合はすぐさま駆除し、専門家による種の同定をしなければなりません。
すでに定着してしまっている地域でも繁殖拡大を防ぐ努力をしなければなりません。
いずれにしても、もしアルゼンチンアリと思われるアリを見つけたら自治体に連絡をしてください。
これ以上の生息域拡大を防ぐためにも、地域住民全体で協力して早期発見、早期対応をすることが望まれるのです。