ハブとマングース。
彼らは天敵同士で、出会ったら戦いが起きるというのは多くの方が持っているイメージだと思います。
実際、沖縄県では「動物愛護及び管理に関する法律」によって禁止されるまでは、ハブとマングースの対決ショーを観光地で行っていました。
今でも、対決は見られないものの、それぞれの生態などについて紹介する観光スポットは存在しています。
今ではすっかり駆除の対象となってしまったマングース。
今回は、このマングースが及ぼす生態系への影響や感染症、生態や駆除状況について詳しくみていきたいと思います。
マングースとは
マングースとは、食肉目ネコ亜科マングース科に属する哺乳類で、17属37種が存在します。
マングースはイラン、ミャンマー、ネパール、インド、中国南部などの西アジアから東南アジアに広く分布しており、日本には沖縄本島、奄美大島に移入分布してします。
日本にはもともと存在しなかった動物なのですが、1910 年、沖縄島内のハブや野ネズミを退治する目的で十数頭のマングースが導入されました。
このとき導入されたマングースはインドのガンジス川流域で捕獲した個体で、現在ではフイリマングースと呼ばれる種と考えられています。
当時、沖縄島ではハブによる咬傷被害と野ネズミによるサトウキビの被害に悩まされており、これらを捕食する相手としてマングースに大きな期待がかけられたのです。
1979年には奄美大島にも導入されたマングースですが、導入とともに島内であっという間に繁殖し、沖縄島では3万匹に達した時期もあったようです。
では肝心のハブや野ネズミ駆除はどうなったか、と言う点についてですが、調査の結果マングースはハブを捕食しないということが分かりました。
なぜなら、マングースにとってハブは必ずしも捕食対象動物ではなく、ハブよりも比較的容易に捕食できる動物を狙うからです。
当初の目的が裏切られただけでなく生態系を壊しかねないまでに繁殖してしまったマングース。
2005 年、ついに特定外来生物に指定され、捕獲・駆除の対象となったのです。
体の特徴
さて、ここでマングースの特徴についてみていきましょう。
マングースの体長や体重は種によってさまざまですが、現在日本に生息するフイリマングースは体長25~40cm、体重0.4~1kg、尾長19~29cm程度で、基本的にオスのほうがメスよりも大きいです。
体は黒褐色や茶褐色と黄土色の毛で覆われています。
体は流線型で細長く、四肢は短いです。
また、耳は短く鼻先は細く尖っており、尻尾は根元が太く先端に行くほど徐々に細くなっています。
オス、メスともに肛門付近に臭腺があって異臭がするのが特徴です。
生態
マングースは昼行性で、巣穴を作って単独で生活しています。
比較的温暖な気候を好み、農地や自然林、草地、海岸、市街地などいろいろな環境に適応できます。
食性は雑食で、ネズミなどの小型哺乳類、鳥類、爬虫類や昆虫、果実、木の実などさまざまなものを食します。
日本に定着しているマングースは、比較的昆虫類を好む傾向にあることが研究により分かっています。
繁殖は年1回、1 ~8月に交尾し、6~7週間の妊娠期間を経て2~3匹の仔を出産します。
マングースによる被害
ハブや野ネズミ駆除のために沖縄にやってきたマングース。
しかし前述したとおり、調査の結果マングースはハブを捕食しないことが分かりました。
それどころか、現在では、我々人間にも被害を及ぼす害獣となってしまっています。
ここで、マングースが及ぼす被害についてお話させていただきます。
生態系への影響
捕獲したマングースの胃の内容物や糞を調べた結果、ニワトリや野鳥を始め沖縄島の在来種であるオキナワキノボリトカゲやヤンバルクイナが捕食されていたことが分かりました。
奄美大島でも、希少種であるアマミトゲネズミやアマミノクロウサギ、ケナガネズミが狙われていたのです。
奄美大島には古くから存在する珍しい動物が多く、アミノクロウサギに関しては国の天然記念物に指定されています。
そんな貴重な動物がマングースのえさとなっているという事実に、当時の研究者たちは大きな衝撃を受けました。
肝心のハブが減らないどころかマングース自体が繁殖しつづけ、生態系を破壊してしまっていたのです。
農業被害
マングースによる被害は生態系への影響だけではありません。
マングースが増えるにつれて、農業被害も深刻化したのです。
特に養鶏場における雛や食肉鶏の食害、果樹園におけるマンゴーやポンカン、バナナなどの食害がひどく、農家の方々は頭を抱える事態となりました。
レプトスピラ症
また、マングースの存在は人間社会にも大きな影響を及ぼしました。
それは、レプトスピラ症という人畜共通感染症です。
沖縄県では、マングースの増加とともにレプトスピラ症に感染する患者が増えました。
レプトスピラ症とは、感染すると頭痛や発熱、筋肉痛といった症状が現れる病気で、重症化すると腎機能障害を引き起こし死亡する場合もある恐ろしいものです。
レプトスピラ細菌を保有する哺乳類から感染するのですが、この細菌はイヌやネズミ、イノシシ、そしてマングースも保有しており、細菌は尿とともに排泄されます。
排泄されたレプトスピラ細菌によって土壌や川が汚染され、農作業や川遊びをする際に人間に感染してしまうのです。
国内でのレプトスピラ患者は沖縄県が最多で、1970年代は年間50人ほどがこの病気によって死亡していたようです。
近年は環境の整備、予防、マングースなどの保菌動物の駆除などによって感染者はかなり減少しています。
とはいえ、今でも感染する可能性はありますので、
・素手や素足で農作業を行わない、傷がある場合には川に入らない、素手で野生動物を触らない
といった予防策を必ずとるようにしましょう。
マングースの駆除対策
さまざまな被害を及ぼしているマングース。
2000年頃から、沖縄島や奄美大島では大々的な防除対策が進められました。
2005年に特定外来生物に指定されてからは、「外来生物法」に基づいた防除計画が立てられています。
防除方法は、主に罠を設置することによる捕獲です。
マングースバスターズという専門の捕獲チームが作られ、島内に罠をしかけ続けたのです。
それだけでなく、自動撮影カメラやヘアトラップの設置によって生息状況を確認し、探索犬も導入するなど徹底したモニタリング調査を行いました。
その結果、これまでに沖縄島と奄美大島あわせて2万匹近いマングースが捕獲され、島内における生息密度を大きく低下させることに成功しました。
その後の調査で、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギなどの在来種の個体数が回復したことも分かっています。
マングースの捕獲事業には多額の予算が使われましたが、農業被害や人的被害も減り、生態系の破壊も食い止めることができたと考えれば、結果的に無駄ではなかったと言えるでしょう。
まとめ
マングースはもともと日本にはいませんでしたが、ハブや野ネズミを退治する目的で沖縄や奄美大島に持ち込まれました。
しかし、マングースはハブを積極的に襲うことは無く期待していたような効果はありませんでした。
それどころか、在来種であるヤンバルクイナやアミノクロウサギといった希少な動物を捕食し始めたせいで生態系へ影響が出るようになってしまいました。
また、農作物を荒らすことや、感染症(レプトスピラ症)の原因となることで人間社会にも大きな影響を及ぼしました。
現在は大々的に駆除対策が行われており、生息数を大きく低下させることに成功しました。
今後はマングースの完全排除を目標として、引き続き駆除事業を行っていくようです。
いつの日か、本来の生態系に戻る日がやってくると良いですね。