人間に感染すると皮膚爬行症や腹痛を起こすと言われている旋尾線虫。
本来ホタルイカの寄生虫ですが、それを食べることによって人間にも感染します。
海産物で感染する寄生虫はアニサキスが有名ですが、ありふれた食材であるホタルイカを口にすることで感染する旋尾線虫も実は案外身近な寄生虫なのです。
今回は、そんな旋尾線虫のもたらす危険をお伝えします。
旋尾線虫とは?
旋尾線虫はType I 〜 XIIIまで分類され、病気を起こすのはType Xだと言われています。
大きさは0.8~2mm未満と非常に小さいため、目で見てもわかりにくいものです。
ホタルイカの約2-7%に寄生している他、ハラハタ、スルメイカ、タラなどの内臓にいることもあります。
人間が感染すると「幼虫移行症」を引き起こします。
感染原因の最も主なものである「ホタルイカの踊り食い」は漫画「美味しんぼ」にも出てきているので、意外と私達の身近にある寄生虫なのですね。
旋尾線虫は本来人間には寄生しない生き物
この生き物は、本来は海の生き物に感染します。
ホタルイカを食べることで、クジラやイルカなどの海に住む哺乳類に感染し、海の中で感染サイクルを回しているのです。
しかし、人間がホタルイカを獲って食べることで、このサイクルに入り込んでしまいました。
本来は海の哺乳類に感染するはずの旋尾線虫は、人間の体内に入っても成虫にはなれません。
本来の宿主でない人間の体内は居心地が悪く、幼虫のまま免疫細胞の攻撃から逃げ回ることしかできず、挙げ句の果てに様々な症状を引き起こして宿主が病院にかかることで、体内から取り除かれてしまうのです。
人間に感染したばかりに成虫になれず、病院で摘出されてしまう運命だなんてある意味可哀想な虫ですね。
様々な症状を引き起こす旋尾線虫
旋尾線虫が皮膚に侵入すると、「皮膚爬行症」というみみず腫れのような症状をもたらします。
旋尾線虫は皮膚の浅い部分を通るため、みみず腫れの部分に虫の形がくっきりと浮き出て、時には水疱ができることもあります。
病院で患部の組織を切ると、虫体の断面を見ることができます。
皮膚爬行症の場合は、感染源となる物を食べた後、約2週間後に症状が現れることが多いそうです。
腹部の症状としては、腸管に侵入して腹部膨満感、腹痛、嘔吐、腸閉塞を起こします。
症状を起こす仕組みは完全には明らかになっておらず、炎症やアレルギーなどが関係していると言われています。
腹部の症状は、感染源となる物を食べた後、数時間〜2日後に症状が現れるそうです。
ごくまれに旋尾線虫が目の中に入り込むこともあり、最悪の場合失明に至ることもあります。
劇症型の症例では、腸閉塞の症状が強く腸管摘出を余儀なくされたケースもありました。
旋尾線虫にしてみれば何も好きで人間の体内に入った訳ではないのでしょうが、皮膚にみみず腫れを作るだけでは終わらず腸まで摘出させてしまい、おまけに失明まで有り得るなんて大迷惑では済まされない生き物ですね。
旋尾線虫の歴史
旋尾線虫幼虫移行症は1987年に報告され、1994年に報道されたことで世間に知られることになりました。
1987年に富山湾でホタルイカを生きたまま発送するようになったことがきっかけで、感染が全国に広がったと言われています。
後述するように、冷凍や加熱、内臓処理を義務づけられるようになってから発症件数は激減しましたが、漁期は一部の地方で報告されています。
生食用かそうでないかを確認し、きちんと調理方法を守ってさえいれば、スーパーで買うホタルイカで感染することはまずないでしょうが、最近のグルメ志向で踊り食いが未だに行われているため、ホタルイカの踊り食いを楽しみたい場合は衛生管理のしっかりしたお店を選びましょうね。
予防・治療法
現在、予防法として厚生省で「生食用のホタルイカは冷凍処理か内臓除去処理をする」「生食用以外は加熱処理をする」と決められています。
旋尾線虫は主にホタルイカの内臓に寄生しているため、
・踊り食いを避けること
・冷凍していないホタルイカを刺身で食べないこと
などがあげられます。
治療法としては、皮膚爬行症の場合は虫体の摘出をします。
腹部の症状の場合は、対症療法が行われますが、重症化している場合は手術になった例もあるようです。
まとめ
・旋尾線虫は主にホタルイカを食べて感染する。
・旋尾線虫は皮膚症状、腹部の症状、目の症状をもたらす。
・劇症型では、腸閉塞によって腸管摘出に至ったケースもある。
・現在は予防のため、生食用のホタルイカは冷凍処理、加熱処理、内臓除去のいずれかしなければいけない決まりがある。
・感染を防ぐため気を付けるべきことにホタルイカの踊り食いを避けること、生食用以外のホタルイカを絶対に生で食べないことなどがある。
ホタルイカは寿司でも刺身でも美味しいものですが、「旅先で食べたらその日のうちに救急車で病院に運ばれて手術までしました」なんてことになってしまったら旅行を楽しむどころではないですよね。
くれぐれも、お店選びには気を付けましょう。